ぱちぱちと白い瞼が瞬きをくり返す。揺らめく夕日。まだ状況をしっかりと理解しきれていないのだろう、切島を見るその瞳はどこかぼんやりとしている。はぁはぁと呼吸は荒く、爆豪はそんな自分の呼吸に不思議そうに首をかしげた。
「あ、あ……ッ? な、ん……だ? はぁ……ぁ」
「あ〜……、起きた? 爆豪」
「はっ、あ? ……きり、しまっ?」
「おぉう、おめぇの愛しの切島だぜー」
「ぉ、まえ……、なに、いって……、んあっ!?」
 爆豪はなにがなんなのかわからないまま身を起こそうとして、しかし、その拍子に中で擦れた切島のものに、すぐ身体を震わせながらベッドに沈んだ。そして、なんなんだ一体と刺激のもとであろう下半身へと視線をやり、丸出し状態の自身のそれに思いっきり目を白黒させた。
「なっ、え、はッ? なん、だ……、なんで、脱いで……っ? ぁ、つか、これ……っ、は? あ、……、なっ、は、挿入って……ッ!?」
「ん、正解」
 頷き返しながら、切島は腰を引いた。
「んあァ、くっ!」
「そのさ、まぁなんだ。話せばちょっと長くなるような、ならないような、さっ」
「っっっ! あぁ!」
 再度、ずちゅりと奥まで押し進めれば、爆豪は目を見開きながら大きく声をあげた。腰が跳ねて、足先が不安定に揺れる。切島はずれた爆豪の身体を抱え直すと、状況を説明しないまま、ぐ、ぐ、と遠慮なく腰を振るった。
「あ、あっ、あッ、……っ! あァっ!」
 ぶるり、と爆豪は悶えるように全身を震わせた。
 腰を押し込めるたびに艶やかな声がひっきりなしにあがって、切島の耳を喜ばせてくる。それがまたたまらなくて、もっともっとと爆豪の中を犯す。
「気持ちいい? 爆豪、なぁ、気持ちいい?」
「まっ……、て! き、りっ、しま! あ、くぅ……うご、くなぁ、ん!」
「ん、気持ちくない? まさか痛い……?」
「うぅ、痛くはっ、……ぁんっ、……ねぇ、けどっ」
「そっか! それなら、よかった」
「よくっ、ねぇ! あっ、いいから……っ、とまれって、いッ! ……ってんだ、よォ!」
「ぅごっ」
 あえてとぼけるような返答ばかり返していた切島だったが、伸びてきた手に顎を掴まれて小さくうめいた。爆豪の手のひら。甘いにおいが強くする手のひらに無意識にすんと鼻を鳴らす。良いにおいだなぁ、なんて思ってると、その手のひらは切島の顔を遠ざけるように、ぐぎぃー、と顎を押してきた。渾身の力で、これ以上無理! というほどに首を反らされる。
「いでででででッ、わかった! わかった! やめる! 一旦やめるから! 一旦!」
 いったん、を強調しながら、ぎしぎしと痛む首に切島は叫んだ。そして、ぐぅぅううう、と息を詰めるだけ詰めて、なんとか動きを止める。とてつもない重労働。はっ、はっ、と息が上がった。
 しかし、それ以上に爆豪は息を荒げていた。息を整えようと、ふぅふぅと何度も大きく息を吐く。そのたびに爆豪の腹が動いて、同じように中が蠢くせいで、二人はそろって息を止めた。動きたい。思いっきり突き上げたい。底知れぬ欲望は容赦なく切島を襲ってくるが、今好き勝手動こうものなら確実に爆破される。切島は耐えに耐えた。

 しばらくして、ようやく落ち着いてきたらしい爆豪が、ぎっ、と鋭く切島を睨んだ。眉間にこれでもか、というほどにしわを寄せ、ぎりぎりと歯を食いしばっているその表情は確実に怒っているそれであった。
 当たり前だ。それだけのことを切島はしたのだ。
 いや、現在進行形でしでかしているのだ。
「信ッッじらんねェ! てめぇ、自分がなにやってんのかちゃんと自覚あんのかっ!?」
 がおっ、と爆豪が吠える。切島は首をすくめた。
「やっぱ怒る……?」
「当然だろうがくそがッ!! てめぇ、俺の許可もなしに、こ、こんな……ッ!」
 あまりのことに言葉が出ないのか、爆豪はわなわなと唇を震わせた。羞恥に、顔どころか首筋までも真っ赤に染めて、これでもかというほどに切島をにらむ。
「くそ、まじ信じらんねェ、このくそ! くそカス野郎! 死ね! アホクズ!」
「うぅ……」
 酷い言い草だが、ぐうの音も出ない。だって、爆豪の言う通りだ。人の寝込みを襲うなど、そんなの切島の好む男らしさとは正反対のさらに向こう側に位置するほどに遠いクソみたいな行いである。
 たとえば、だ。たとえば上鳴や瀬呂に彼女がいたとして、二人が「いや〜、彼女が寝ている隙に顔射した上、そのままの勢いでセックスしちゃった」なんて言ってこようものなら、切島は「いくら彼女とはいえ人が寝ている隙にそんなことするなんてマジ最低だな、男の風上にも置けねェ」と反応を返したことだろう。
 その後の二人の返し次第では、そのまま友だち関係をやめることを考えるほどに、卑劣な行い。自覚している。けど……。
「くそ強姦魔! しね! そこまで飢えてんならいっそ去勢しちまえ! 駄犬以下野郎が!」
「ぐぅ、ぅぅ……、なにもそこまで言わなくても……」
「言われて当然だろうが!! そんだけのことをてめぇはしてんだからよォッ!」
「そ、そりゃ俺だってなぁ、こんなことしちゃだめだってわかってはいたよ……」
「わかってんならすんな! くそ、死ね! くそが!」
「うぅ、わかってた! わかってたけどさぁ! でも、でもっ」
「んだよっ、あぁ!?」
「でも……っ、爆豪がえろいのも悪い!」
 切島は大声で主張した。
 そうだ。確かに俺は悪い。悪いことをした。付き合っているとはいえ同意がないままに手を出した。確かにそれは切島が悪いし、責められても仕方がないことだ。けれど、ここまでくそだ死ねだと言われると一言反論したくなる。
 俺が悪い。わかっている。でも、じゃあ爆豪には、なに一つ、一切、まったく、まるで落ち度などないのかというと、いいやそれはちょっと違うだろうと切島は首を横に振りたい。

「そりゃあ、手を出しちまった俺が悪い! あぁ悪いさ! けど、俺が最初のちゅーだけで止まれなかったのは爆豪がめっちゃえろいせいだろ!」
「はぁ!? てめぇ、開き直ったうえに責任転換までする気かよ!」
「いやぁ、そうじゃねぇけどよぉ、俺が悪いってのはわかってるって! けど!」
「てめぇだけが悪いんだよ! “けど”って言うな!」
「でもマジで爆豪がえろいんだもん!!」
 言いながら、切島は静止させていた腰を揺らした。そうすれば、爆豪はびくりと敏感に身体を跳ねさせる。
「あっ……、てめっ、動くなあほ! んあ……っ」
「ほらぁ! その声! えっろい声!! 寝てるときもさぁ! 俺が触るとちょいちょいそんな声あげてさぁ! そんなん聞かされたら勃起すんに決まってんじゃん!?」
「っ、寝てる時の声なんざ知るか! だいたいっ、ぁ、俺だってこんな声だしたくねェわ! けどっ、ぅく……、これもてめぇがッ」
「だから、それェ! それも! おめぇはあんま分かっちゃいねぇんだろうけどその言葉もめっちゃ俺のちんこにくるんだって!」
 爆豪は、声なんて出したくないのに切島のせいで我慢できない、と言うが、それは声が我慢できないほどに切島のものがいいと言っているも同然だ。切島のテクがいいと。そんなことを愛しい恋人である爆豪に言われて反応するなというのが無茶な話である。
 反応するに決まっている。そりゃもうぎんぎんになるに決まっているだろうが。
 だというのに当の本人はまるでわかっていない。

 前々からそうだ。爆豪にはそういうところがあった。
 普段から自分というものに対し絶対の自信を持ち、大胆不敵で不遜ともとれるその言動に見合うほどの能力を実際に有し、上鳴たちに才能マンだ才能マンだとからかわれるほどにその力を使いこなしているくせに、自分の魅力の部分となるといまいち正しく自覚できていないのだ。
 爆豪の発言や反応が切島やほかの周りの連中にどれほどの影響を与えているのか、その魅力を前に切島がどれだけ歯を食いしばって耐えているか、どれだけの人たちが魅かれているのか、まったくわかっちゃいない。
 そんなちょっと鈍感だったり天然だったりするところも切島からしたらまた可愛くもあったりするのだが、時折ひどく危なっかしくて仕方がないし、辛抱たまらなくなる。無防備きわまりない姿。
 人前でそんな姿を晒されたら、こいつは俺のだ気安く見んじゃねェ!と叫びたくなるし、頼むからそういうのは俺の前だけにしてくれと爆豪の肩を揺すりながら懇願したくなる。
 ましてや二人きりの時など、我慢できるはずもない。駄目だとわかっていても、爆豪を相手にするとどうも理性が上手に働いてくれないのだ。ああしたい。こうしたい。欲望が止まらなくなる。こんな風に思うのは、爆豪だけだ。

「だから俺だけが悪いんじゃない! 俺も悪いけど、爆豪も悪い!」
「開き直るなっつってんだろ!! っ、悪いのは最初から最後まで全部てめぇだけだ!」
「いいや、無防備に寝てる爆豪が悪い! もっちもちの頬っぺたしてる爆豪が悪い! あんなもちもちすべすべしてちゃそりゃちんこの一つくらい擦りつけたくなるだろ!」
「はぁあ!? て、てめッ、んなことまでしてたんか!?」
「ましてやさぁ! 寝てるくせしてあんな声だされちゃさぁ! 止まれるはずねェだろ!」
「あ、くそ髪っ、んんッ、ばっ、誰が、動いて、あぅ、いいって……っ」
 爆豪は制止するが、切島はもう聞かなかった。
 話している間も一切萎えることなく硬度を保っていた自身をゆるゆると動かす。すると、爆豪は切島を止めようとしてか、ふたたび切島の顔に手を伸ばしてきた。だが切島は逆に爆豪の両手をそれぞれ捉えると、ベッドへと押さえつけた。
「あっん、あッ、きりしま、ぁ、うぁ、や、やめ……あっ!」
「わりぃ、ほんと、もう無理っ! あとで、あとでな、そん時またちゃんと謝るからよっ」
「て、めぇ……、ひぅっ、あっ、く……、て、適当言ってんじゃ、んあぁっ」
 爆豪は不満を訴えようとするが、喘ぎにさえぎられてうまく言葉になっていなかった。あぁ、もう、それがまたえろくて仕方がない。あの爆豪が声を我慢できないほどの快感に震えている。そしてその快感を与えているのはほかでもない自分である。
 こんなの、くそみたいに興奮するに決まっているだろう。切島は一時の“待て”の分を取り戻すかのように、激しく爆豪に喰らいついた。

「はぁっ、あぁあんんッ……!!」
 ぐちゅう、といやらしく音を立てながら、切島は深く深く爆豪の中に身を沈めた。狭く熱い肉壁の奥の奥の、さらに奥の方。爆豪の抵抗を上から押さえつけたまま、根元までぐぅと容赦なく押し進める。
 爆豪は眉をひそめ、ぎゅっと目をつぶって苦しそうな表情をしていた。だけど、それだけじゃない。切島は知っている。もう幾度となく身体を重ねて切島のものをしっかりと覚えこんだ身体は、苦しいほどの攻めの中に確かな快楽を感じていた。その証拠に、二人の間で揺れる爆豪のものは起ち上がったままてらてらと濡れている。
「はっ、まじ、爆豪えっろい……っ」
「く……、そっ、しねッ、しね! はぁっ、あ、ぁッ!」
「ん、そぉか、そぉか、気持ちいーか」
「んなことっ、いッ、て……あっ、んん……ねぇっ!」
「言ってるも同然だってば」
 ふるふると必死に首を振る爆豪に切島はふへっと笑う。白い肌をこんなに真っ赤にさせて、目にたくさんの涙を浮かべて、説得力なんてあったもんじゃない。それでも爆豪は首を振る。意地っ張りだなぁまったく。でも、そこが爆豪らしい。
「はぁ〜、もう、爆豪かぁーいいっ、えろい、好き、超好きっ」
「うる、さいっ……! はッ、あん、あ、あッ」
「爆豪も好きだろ? 俺のこと、好きだよな? はっ、なぁ爆豪っ」
「ッく、そ髪が……っ、あっ、ぅ、黙れっ、んんッ」
 爆豪からは罵倒ばかりが返る。だが、否定は返らなかった。こんなことをしでかされて、それでも嫌いとは言わない。それはつまり、そういうことだろう。たまらない。切島は興奮しきっていた自身がさらに大きく膨らむのを感じた。
「あぁ、んん……ッ!!」
 それに合せるようにして、爆豪が身体を震わせた。ぎゅ、と目をつぶり、快感に悶えて押さえつけられた手の甲をシーツに強くこすりつける。
「ん、くっ……、し、ねっ! あ! あァっ、んん……ッ」
「うんうん、気持ちいーよな、爆豪。俺も、めっちゃ気持ちいい……!」
「このっ、やろ……ッ、は! っあぁ、ん、んぁ、あ、あ!」
「爆豪の中、すっげぇ熱くて、すっげぇ俺に、絡みついてくるっ」
「んんあ……っ、く……ッ、し、ねっ! くそっ、髪ッ! ふ、ぅ!」
「きゅうぅ〜、って俺のこと、離したくないっ、みたいに、さっ」
 いちいちそんなことを言う切島に、爆豪は聞きたくないとでも言いたげにふるふると首を振った。しかしいくら首を振ってみせたところで、爆豪の身体は切島の与える快感に素直に反応を示していた。
 押し込むたびに爆豪の熱い内側は痛いほどの切島を絞めつけ、震えながら起ちあがっている天辺からは先走りがだらだらと溢れて止まらない。

「なぁ、爆豪イきそう? イく? 俺の気持ちくてイく? 俺のでイきたい?」
 でれでれとだらしなく表情を崩しながら切島はさらにそんなことを言った。
 本当は聞かなくともわかっていたが、喘ぎと罵倒を混ぜて返してくる爆豪の姿についつい加虐心が煽られた。あえて爆豪の良いところをかすめるように突き、なぁ爆豪と尋ねる。俺の欲しい? もっと欲しい?
「う、く……、ぐ、ぅぅ……ッ」
 だが爆豪は今度の切島の問いに答えはおろか罵倒すらも返しはしなかった。
 それどころか、ぎっ、と切島をにらむと、これ以上声を出すまいとしてか、ぎゅぅっと唇を噛みしめた。噛みしめすぎて切れてしまうのではないかというほどに強く、思いっきり。
 切島はすぐさま加虐心を忘れ、慌てた。
「ごめんっ! ごめん爆豪! 俺いじわる言ったな! すげぇ意地の悪いこと言ったな!」
「っ、ふ、うぅ……っ!」
「ほんとごめん! 俺が悪かったからさ、唇噛むのやめようぜっ、なっ」
「っ……!」
「痛いのは無し! 気持ちいーことだけしよう! なっ? なっ? 爆豪っ?」
 必死で謝る。しかし、意地になっている爆豪は唇を噛んだまま切島をにらむ。こうなったら爆豪は頑固だ。いくら切島が言葉を重ねたところでうんわかったと頷くことはない。
 しくじった。切島は自分の吐いた台詞を後悔した。気分がノっているときは爆豪もこのちょっとねちっこいノリに付き合ってくれたりするのだが、完全にしくじった。寝込みを襲って無理やりし始めたも同然の今回のセックスで爆豪が素直に答えるはずなどない。
 わかっていたはずなのに、調子に乗った。爆豪のあまりのえろさに調子に乗った!
「爆豪ぅ、血ぃ出ちまうだろぉ〜……」
 切島は弱った。自分のせいで爆豪にいらぬ傷を作らせるなんて、そんなことあっていいはずがない。どうしようか。悩んだ末に、切島は噛みしめ続ける爆豪に顔を寄せると、ちゅ、と唇を重ねた。
「んぅ、うぅ〜……っ、んん」
 爆豪は嫌そうに顔を背けようとしたが、しつこく唇を追って無理くり口づける。
 噛みしめすぎて熱を持つ表面を軽く撫でてから、舌を差し込みゆるゆるとなだめるように爆豪の舌をくすぐる。それすらも嫌がるように爆豪の舌は狭い口内を逃げ回っていたが、諦める気配のない切島にやがて力尽きたように、ちゅく、と音を立てて舌が絡まった。

 ちゅ、ちゅ、と音が続く。その音が積み重なっていくほどに尖っていた爆豪の気配が少しずつほぐれていく。その気配を正確に感じ取った切島は、唇を重ねたままの状態で大きく腰を動かした。油断しているだろう爆豪の良いところを確かな意識を持ってピンポイントに突いてやる。
「んんッ! んぅ!」
 びくりっ、と爆豪の身体が跳ねる。一緒に絡めていた舌まで跳ねあがったが、気にせずさらに強く中を突きあげた。ぎゅぅ、と爆豪の全身に力が入って、肉壁が絡みついてくる。切島は大きく腰を引いてぎりぎりまで自身を抜くと、そのきつく絡みついてくる肉壁を掻き分けるようにすぐにまた奥まで一気に抉るようにして突いた。
「んあぅ……ッッ!!」
 塞いだままの唇から一層大きな零れ、爆豪の身体の震えが痙攣じみた小刻みなものに変わる。それに合わせて切島はピストンのスピードを速めた。酸欠で息が苦しい。それでも、唇は離したくなかったから、さらにそのまま腰を振るう。
「んッ、んぁ! んくっ、んうぅ……ッ!」
 爆豪の高い声とともに、ずちゅ、ずちゅ、と舌を絡めるよりも卑猥で大きな音が響く。激しく攻めたてられた爆豪はなすすべもなく、ただひたすら快楽の波に身体を善がらせた。
 ふらふらと揺れていた脚が強く宙を蹴り、爆豪の身体が固く強張る。その次の瞬間。
「っっっ……!!!」
 塞いだ口から悲鳴が上がった。実際には、それはほとんど声には出されていなかったが、そのとき確かに爆豪は悲鳴を上げていた。強い絶頂。びく、びくっ、と二回身体が断続的に跳ねあがって、それと同時に二人の間で揺れていた爆豪のものから、びゅっ、と白濁が溢れた。
「っ、」
 熱い精液が切島にまで届く。肉壁がぐにぐにとうねりながらさらに強く切島を絞めつけてきて、射精を促すようないやらしいうねりに切島は息を飲んだ。強い射精感に襲われ、ぐぅ、と全身に力が入る。そして、そのまま堪えきれずに、切島は爆豪の中へと勢いよく精を放った。
 自分だけしか知らない、爆豪の深いところ。外も中も、全身くまなく犯し尽すようにびゅるり、びゅるり、と複数回に分けて沸騰しきった欲を吐きだす。そうやってすべてを爆豪の中に吐きだし終えてから、ようやく切島は爆豪から唇を離した。
 どちらのものともわからぬ唾液が糸を引いて、ぷつり、と切れる。はぁ、と切島は荒く息を吐いた。爆豪を見れば、同じように息を荒く乱していた。白いはずの頬は真っ赤なまま、額に浮いた大粒の汗が目尻の涙と交じってその頬を濡らす。切島はそれを舐め取るようにして、ちぅ、と頬に口づけた。
「はっ、……はぁ、くそ、きりしまがッ」
 爆豪が吐き捨てるように言う。切島は笑った。



◇ ◇ ◇







「爆豪! ほんと悪かったって! 機嫌直してくれよぉ……っ!」
 憐れみを感じさせるほどに情けない声で切島は叫んでいた。この通りだ! とこんもり膨らんだベッドに向かって綺麗な土下座をし、ごめん、悪かった、反省してる、といくつもの謝罪をくり返す。だが、布団にこもった爆豪は出てこようとはせず、返ってくる言葉はというと、死ね、くそが、くず野郎、とそればかり。
「ばくごぉ〜、せめて顔だけでも見せてくれよぉ……」
 しゅん、と肩を落としながら懇願する。
 行為が終わって、身を整えベッドも整えてから爆豪はずっとこの調子だった。布団の中に引きこもったまま、ぽんぽんとなだめるように山を叩いても、触んな、と取りつく島もない。
「爆豪」
「死ね」
「ごめんってば」
「くそが」
「反省してるからさ」
「くたばれ」
「腰痛くねェ? 大丈夫か?」
「黙れ」
「腹減ってるだろ? 夕飯食いに行くか?」
「餓死しろ」
「ばぁくごうぅぅ〜!」
「うるさい」
 一言喋れば一言罵声。それでも、諦めることなく切島は声をかけ続けた。
「ばくご〜」
「……おい」
「っ! な、なんだ爆豪!?」
 ふいに罵倒以外の反応が返ってきて、テンション高く返事をすれば、爆豪が布団から顔を半分出した状態でこちらを睨んでいた。機嫌はちっとも軟化していない。むしろ、刺されそうなほどにその眼差しは鋭い。
「てめぇなにニヤニヤしてんだ? ぁあん?」
「……へ?」
 切島は言われた言葉に、ばっ、と顔に手を当て、口元をぺたぺたと触った。自分ではまるでなにも気がついていなかった。だが、言われてみればなるほど確かに口角が緩く上がっているではないか。
「クソ髪てめぇ、本気で反省してねェな……!」
「いやいやっ、してる! めっちゃしてる! 悪かったって!」
 これは本当だ。この行いを後悔しているかと聞かれたら、いや最高でした、と答えてしまうだろうし、やっぱりえろい爆豪もちょっとは悪いよな、と思ってたりするがちゃんと反省してはいる。心の底から。
「じゃあ、なんだそのニヤケ面はぁ! 反省してる人間の顔じゃねェんだよッ!」
「あは〜……、それは、まぁその……な?」
「な? ……じゃねぇ!」
 まだなんか言い訳があるんなら聞いてやろうじゃねぇかと爆豪は目尻を吊り上げる。凶悪な表情だ。最高にご機嫌斜め。まぁ、当然だろう。わかっていたからこそ切島は言い淀んだ。
 ニヤニヤしている自覚こそなかったが、ニヤニヤしてしまった原因に心当たりはある。けれど、いまこの状況でこれ言ったらますます爆豪怒るんじゃね? そう思ったから切島は口をもごもごとさせた。
 しかし、爆豪がいいから言え! とにらんでくるから、言い訳じゃないけどさぁ、と前置きしてから切島は答えた。
「その、無防備に寝てる爆豪も超かわいくて最高にえろくてたまらなかったけどさぁ、やっぱり、声かけたらこうして反応が返ってくる起きてる爆豪が一番いいなぁって思ってよォ」
「……はぁ?」
 切島の言葉に爆豪はぽかんと呆ける。あ、その表情もめっちゃかわいい。なぁんてそんなことをついつい思ってると、爆豪は切島の言葉を飲みこむように瞬きを一つして、そしてすぐにまたぎりっと目尻を吊り上げた。
「死ね! くそが!」
 またしても身も蓋もない罵倒が返る。
 けれど切島は見逃さなかった。布団からこっそりとのぞく爆豪の白い耳がほのかに赤くなっていることに。だから切島は、いいや生きる! と力強く言い返した。爆豪と一緒に生きる! そりゃもう良い笑顔で宣言した。そうしたら殴られた。グーで殴られた。鼻っ柱にピンポイントでグーパンチ。爆破じゃなくて素手パンチだったから、硬化できなくて鼻血が出た。だが、血に濡れた切島の顔はやはり良い笑顔のままであったのだった。
ただ想うだけでは到底足りない