轟の手はいつだって熱い温度をしていた。その手のひらに裸の肌を撫でられると、じくじくと熱が灯るほどに熱い温度。心なしか左手のほうが熱いのはやはり個性の影響だろうか。しかし、それならば右手は冷たいのかというと、違う。右手も左手も、撫でてくる手のひらはどちらも指先まで熱かった。
 その両手で外も中もくまなく高められた身体は、すっかりぐずぐずにとかされてしまっていた。目玉焼きの一つも焼けないくらい不器用なくせに、中を好き勝手いじくる指のなんと巧みなことか。腹の底から沸き上がる衝動に思わず逃げるように身をよじれば、腰骨をぐっと強くつかまれ身体を引き寄せられた。指が食いこむほどに強く掴まれて、眉をひそめる。いてぇよ。そう言いたかったけど、口から出てくるのは言葉になってない情けない声ばかりだ。忌々しい。けれど、そんな気分に反して快感はひたすらに快感であった。
「ぁ、……く、ぅ」
 またしても声が漏れた。すると、轟の口からも、ぐぅ、と唸るようなうめき声が聞こえた。腰から離れた手が今度は外のほうをまさぐってくる。おかげでまた口から声がこぼれた。
 くそが。眉間にぎゅっとしわを寄せながら轟の顔を見れば、やつも同じように眉間にしわを作り、さらには歯をぎりぎりと食いしばっていた。強くなにかを耐えているような表情。いや、実際に耐えているのだろう。力を込めすぎてこめかみには太い血管がうっすらと浮かんでいた。気に食わないところばかりある男だが、その表情は悪くないと思う。絶対に言ってなんてやらないが、まぁまぁ気にいってはいる。

 轟の荒い息に、爆豪は自身の息を重ねた。そうすればぞくぞくと背筋に震えが走った。あ、と思って息を詰める。一緒に下腹部に力を込めるが、自分でも触ったことのない中のその場所をぐっと押されてしまえば、それ以上耐えることはできなかった。
「あ……っ!」
 ぎゅう、と身体を丸めて、高めに高められた熱を放つ。ぱちっ、と目の前で光が瞬く。錯覚だろう。けど、この瞬間は毎回そうだった。何度体験しても、火花のように目の前がはじけて、なにがなんだかわからなくなる。
 くちゅ、と音とともに指が抜かれて、身体は震えた。もう一方で促すようにするすると撫でられ、あぅ、と声を一つ。やめろやくそが、と轟をにらめば、その轟はまだ自身の熱を解放できないまま、ふぅふぅと肩で息をしながら、どこかすわった眼差しで爆豪を見ていた。こいつももう限界なのだろう。
「挿入れねぇの……」
 罵倒を飲みこんで、爆豪は尋ねた。そうすれば轟はすぐにふるふると頭を横に振った。暗闇に二色の残像。血管が浮いたままのこめかみから汗が流れ落ちて、頬を濡らしてきた。拭おうと手を上げるが、身体を引かれたせいでそれは叶わなかった。
 裸の肌と裸の肌が重なる。耳のすぐそばで、聞いているこっちが苦しくなってきそうなほどに荒い呼吸音が聞こえた。ぐぅ、と時折、喉奥を鳴らすそれはまさしく獣のようである。だが、それでも轟は二色のその頭を横に振るのだ。いますぐにでもすべてを食らい尽してしまいたいと全身で主張しておきながら、ふるふると子どものように頭を振る。
「大切、に、してぇんだ……」
 お前のこと。
 奥歯を噛みしめながら、轟は言う。その言葉は、聞き飽きるほどにもう何度も言われたことだ。大切にしたい。だから挿入れない。轟はそう言う。そのたびに爆豪はただ、ふぅん、と軽い応えを返した。散々人の中いじくっておいていまさらなんじゃねェの。そう思うのだが、なにも言わないでいる。
 なにか言う代わりに、爆豪は手を伸ばした。熱い手のひらよりも、よっぽど熱いそれ。きゅ、根元から包むようにすりあげれば、轟はわかりやすく息をつめた。爆豪。名前を呼ばれ、より身体を引き寄せられる。かと思えば、手に手を重ねられた。もっと強く。促されて、言われるがまま力を込める。やっぱり熱い。火傷してしまいそうなほどに。

 爆豪は想像する。その熱がこの身を貫く瞬間。爆豪は、すぐに、あぁ、と息を吐いた。待ち遠しい。でも、少し恐ろしくもある。手のひらだけでも、この身が溶けてしまいそうなほどに熱いというのに、その先なんて、そんなの、本当の本当に溶けてしまうのではないだろうか。馬鹿らしい想像だ。けど、仕方がない。だってこんなことをするのは轟のやつが初めてなのだから。この先どうなってしまうのか、まるでわからない。
 たぶん、それはこいつも同じなのだろうと思う。こんだけ熱に浮かされながら二の足を踏んでいるのがいい証拠だ。怖いのだろう。自分とはまた違った意味で恐ろしいのだ。しかし、だからこそ待ち遠しく思う。理性と恐怖でぎゅうぎゅうに抑えつけられたそれが焼き切れて、衝動のままに解き放たれ瞬間、こいつは一体どんな顔をするのだろうか。見てみたい。すごく見てみたい。
 恐らくだけれど、きっとそれを見られるのはそう遠くない出来事だろうと爆豪は思っている。じりじりと身体に灯る熱は回数を重ねるごとにその温度を上げている。だからきっと、待ち遠しくも恐ろしいその瞬間は、すぐそこまでというところまで来ている。

「爆豪っ」
 名を呼ばれる。幾度目になるだろうか。轟は意味もなくやけに名前を呼んでくるから、わからない。わからないまま、爆豪は気まぐれに名前を呼び返した。とどろき。轟。それに合わせてぎゅっと手に力を込める。そうやって、ようやく轟も熱を吐きだした。どろりとした感触。気持ち悪い。なのに、これがこいつの欲望なのだと思えば言うほど悪くはない。
 しばらくの間二人そろってただひたすら呼吸だけをしていた。やがて、はぁ、と轟が大きく息を吐く。それを合図に、熱に浮かされていた顔に理性の色が少しずつ戻ってくる。あ〜ぁ、と思うが、仕方がない。
「爆豪……」
 残りの熱をすべて吐きだすようしながら、またしても轟は名を呼んできた。飽きない奴だな。そう思っていると唇に唇が触れた。じわりと温かい温度。爆豪は少し考えてから、もう一度気まぐれを起こしてその唇を舌先でぺろりと舐めてやった。そうすれば、ぱっと顔を離した轟がびっくりしたような顔で爆豪を見た。珍しいな。なにがだよ。お前がそういうことするの。べつに、なんとなくだ。ふん、と爆豪は素っ気なく顔をそらす。だが、そらす直前に見えた。それぞれ違う色をした二つの瞳にぽつりと炎のような新たな熱が浮かぶのを。その炎に確信する。あぁ、やはりもう少しだ。あともう少し。

 爆豪は待っている。
焼き切れる瞬間を待っている