顔を寄せた爆豪は根元に手を添えながら、ちゅう、と早速亀頭に口づけた。つるりとした表面に唇をはわせては、時折舌先で撫でるように舐めてみる。
 唇を触れさせたまま、ちらり、と切島の顔を見てみれば、興奮にか切島の顔は赤く、目はギラギラと光っていた。爆豪はその顔をじっと見上げながらこれ見よがしに根元から、つつ、と切島のものを舐め上げてみせた。すると、手にした性器がわかりやすく硬度を増す。
「がちがちだな」
「はっ、爆豪がえろいせいだぜ」
「……ふん」
 なに言ってんだか。
 爆豪は鼻を鳴らして視線を手もとに戻すと、口を大きく開き完全に勃起しきった切島のものを口いっぱいに咥えた。あっという間に口の中はいっぱいになる。爆豪は息苦しさに、きゅ、と眉をひそめた。それでも、もごもごと咥えたまま離すようなことはしなかったが。

(っ、やっぱ、いつもよりでけぇな……)
 手にした瞬間から気がついてはいたが、舌でじわりと切島のものを舐めれば、より一層強くそれを感じた。過去に何度か咥えた時と比べてもふくみ切れない部分が多いし、これだけ大きく口を開いているというのに余裕が全くない。
「爆豪、あまり無理すんなよ」
「……んふふぁい」
 切島も自身のものがいつもより大きい自覚があるのだろう、気遣いの言葉をかけてくる。だが、爆豪は切島の気遣いを無視すると、切島のものを咥えたまま浮いた血管をなぞるように舌を這わせた。
「ぅっ……」
 びくっ、と切島が身体を跳ねさせる。その反応に気を良くしながら、爆豪はゆっくりと顔を上下させるようにピストンを開始した。
 じんわりと唇でその形を十分に確認するようにゆっくりと引き抜き、雁首を超えるか超えないかぎりぎりのところでふたたび、ぐぐっ、と深く咥えこむ。
「あー、あー、やっべぇ、爆豪の口ん中、あっちぃ、とろけそう」
 たまんねぇ。切島が恍惚の声を漏らす。その声に、爆豪は自身にはなにをされたわけでもないのにじんわりと体温が上がっていくような感覚を覚えた。どんどんと口内に唾液が溢れてくる。そのおかげで滑りは増し、爆豪は徐々に徐々にピストンのスピードを上げていった。
「ん、ぅ……ん、ん……」
 じゅぷ、じゅぽ、と卑猥な音がなる。気がつけば、舌にはなんとも言えないような味が広がっていたが、まるで気にならなかった。意識はただひたすら切島を高めることだけに集中していた。

 息を詰めて、ぐぐぐぅっ、とさらに切島のものをぎりぎりまで深く含みこむ。それでも咥えきれない部分は手のひらでしゅるしゅると撫で、時折気まぐれのように下の睾丸を弄ぶように転がしながら、爆豪は何度も頭全体を上下させて深く速いピストンをくり返した。
 切島は、ふ、ふ、と与えられる刺激に心地よさそうに息を漏らしていた。反して、爆豪の苦しさが増していくばかりだ。だが、喉奥に熱い先が触れるたびに切島の荒い息が耳に届き、さらには目の前にあるバキバキに割れた腹筋がぴくりぴくりと震えるから、気分自体はそう悪いものではない。
「んぶ、ぅ、んく……っ、んんッ」
「はッ、ぁ、すっげぇきもちいーぜ、爆豪」
「ん……、ぅ」
 ふと切島の手が頬を触れた。指先がくすぐるように耳の下を撫でてきて、爆豪は、んん、と苦しさとは違った声を上げた。身体が疼く。あぁ、でも、いまは自分の身体などはどうでもいい。
 爆豪はより一層深く切島のものを咥えるとそのまま、きゅう、と喉元を絞った。びくり、と頬を撫でていた切島の指先が跳ね上がる。
「ッそ、れ、やべェって爆豪……ッ!」
「ん、ぐぅ、ぅ、〜〜〜っ」
「ぅぐ、ぁ……、ばく、ご、もう出るからっ、よ」
 離せ、なっ? と切島が促す。しかし爆豪は従わなかった。むしろ逆に、深く咥えこんだままさらに口をすぼめて切島の射精を煽る。そうすれば爆豪の思惑通り、ぐっ、と息を飲む音が聞こえた。
 びくびくっ、と咥えた熱が震える。その次の瞬間、切島は爆豪の口へ勢いよく射精した。
「んぐ、ぅ……っ!」
 びゅるり、と喉奥に熱くどろりとした精液が叩きつけられるように流れ込み、爆豪は呻いた。
「ッ……げほっ、けほっ、はッ、ぐ、……ぉ、えっ」
 切島の股間から顔を離し、シーツに向かって思いっきり咳き込む。
 だらり、と口元から白濁と涎が一緒になってこぼれ、シーツを汚す。
「わりぃ、爆豪! 大丈夫かっ?」
 すぐに切島が咳き込む爆豪の背をさすった。
「ぅ、ぐ……、けほ、げほッ」
「あぁもう、だーから、離せって言っただろぉー……」
「けほっ、はっ……、うる、せぇ……っ」
「まったく……。でも、すげぇ気持ち良かった」
 ありがとな、爆豪。
 切島は嬉しそうに目を細めながら、汚れた爆豪の口元をそっと拭った。そのまま両手で頬を包み込み、己の白濁で汚れているにもかかわらず爆豪の口端に、ちゅっ、と口づけてきた。
 爆豪は、汚ねぇだろ、と顔をそらしたが、べつにいいって、と切島は頬を包んだ両手で爆豪をそっと引っ張り、さらにキスの雨を降らしてきた。ちゅ、ちゅ、と甘い音がいくつも零れて、気恥ずかしさばかりが募る。

 爆豪はそらせない顔のかわりに、少し目を伏せた。
 うろうろと行き場もなく視線をさまよわせて、切島がキスに飽きるのを待つ。
「なぁ、爆豪」
「ん……、だよ」
「なんか今日の爆豪、いつにも増してえろ可愛いな」
「…………は?」
 キスの合間、唐突に言われた言葉に爆豪は伏せていた目を丸くさせた。
 切島を見ると、切島はようやくキスの雨をやめて、じっ、と爆豪を見つめてくる。
「い、いつにも増してって、なんだそりゃ……」
「うぅ〜ん、なんだろう」
 切島は首をかしげる。その間も目は爆豪を見つめ続けたまま。いつもより、どこか深い色をした目。爆豪は、ぅ、と無意識に喉を鳴らした。
「爆豪、まだ俺のこと怖い?」
「だからっ、てめぇが怖いことなんかねェっつーの」
「……ふぅん?」
「……っ」
 穴があくのではないのかと錯覚しそうなほどに、じ、見つめ続けられる。
 爆豪はしばらく切島を見つめ返していたが、あまりにもまじまじと見てくる目に耐えきれずに、切島の手を振り払うようにして顔をそらした。だが、すぐに顎を掴まれて、ぐいっ、と向き合うよう顔を戻される。
「目ぇそらすなって」
「ぁ、……っ」
 なにかを見透かすように爆豪を見つめる深紅の目が細まる。爆豪はまたしても喉を鳴らした。
 いつもだったら、こんな態度で、こんな無理やりな形で顔の向きを戻されたりなどしたら、なにすんだ、と苛立っただろうに、言葉が出ない。だが、それは決して恐怖を感じているからではない。

 爆豪は抵抗も忘れ、されるがまま言われるがまま顔を掴まれた状態で切島を見つめ返した。本当は目をそらしてしまいたくてしょうがなかったが、切島がそらすなと言ったから、そらさなかった。べつに、切島の言うことを聞く必要なんてないはずなのに、不思議と逆らう気になれない。
「爆豪、もしかしてさぁ」
 ひたすら切島だけを見つめていると、ふいに切島が、にっ、と笑った。切島なのに、いつもの切島とはちょっと違う、どこか大人びた笑い方。あ、と思っていると、切島は笑みを浮かべたまま、言った。
「逆に大人になったいまの俺のこと、けっこう気にいってる?」
「な、に……?」
 さっきからなにを言っているのかこいつは。
 爆豪はそう思った。けれど、咄嗟に出てくる言葉はなく、声が詰まった。
 そんな自分に、もしかして、と気がつかずにはいられなかった。
 確かに最初こそは、感触の違う大きな手のひらに鳥肌が立つほどに戸惑いを覚えたりした。のしかかれただけで息苦しさを覚えた。しかし思い返せば、途中からはそんなもの全く感じないでいた。
 むしろ、いくら体重をかけてもがっちりと安定感のある体躯や、低く鼓膜を撫でるように揺らす声に安心感のようなものすら覚えていたような気がする。
 いまだってそうだ。大人っぽく不敵に笑う切島の表情に、すこし、どきりとした。普段の切島とは違った、大人の男の色気。自分はこの男に喰われるのだと、より強く感じる。目をそらすな、と偉そうに言われても、反抗する意志すら削がれるほどに強く。
 まるで自覚などなかったが、これは切島の言う通り、もしかして自分は大人になった切島のことを結構気にいってしまっているのではないだろうか。

「爆豪」
 低い声に呼ばれて、はっ、と爆豪は意識を戻した。
「な、んだよ」
「もう一回……、していいか?」
 切島は爆豪に顔を寄せた。
 頬に頬をすり寄せながら、耳元に唇を近づけ囁くように言う。
「なぁ、いいよな? 爆豪」
「…………っ」
 尋ねる形をしておきながら、有無を言わせぬ物言いだった。
 けれど、やはり不思議と怒りや苛立ちはなく、気がつけば爆豪はこくりと従順な仕草で頷いていた。



◇  ◇  ◇



 肩を押されて、爆豪はベッドに仰向けに倒れた。すぐに恰幅のいい切島の身体に覆いかぶさられて、全身が大きな影で包まれる。天井が見えないほどの圧迫感。
 しかし、その圧迫感にもう違和感や恐怖を感じるようなことはなかった。先ほどはあんなにも身体が強張ったのに、いまはもうまるでそんな気配などない。
「怖いか?」
「……怖くねぇよ」
 何度目かになる問いに答えれば、切島はほっとしたように息をついてから首筋に、ちゅっ、と口づけてきた。手のひらがへその周りをくるくるとくすぐるようになぞってきて、ぞわぞわとした感覚が背筋を走る。だが、やはりそれははじめに感じたような嫌な感覚ではなかった。

 落ち着きを見せはじめた身体の熱がふたたびじわじわ上がっていく。その熱さに、爆豪は切島の背中に腕を回した。広い背中にぎゅっとしがみつき、上がっていくばかりの熱を誤魔化すように軽く爪を立てる。
「爆豪、かぁいいなぁ、爆豪」
「へん、なこと、言うな……んっ」
「変なことじゃねぇって。だって、まじでかわいいんだもん」
 かわいいかわいい。爆豪かわいい。
 切島は言い聞かせるように何度も言った。耳のすぐ近くの首筋でくり返すから、その声はぴりぴりとやけに鼓膜に響いてきた。低い声に奥深いところが震える。もどかしさに足をすり寄せれば、ふっ、と何度目かになる掠れるような低い笑い声が聞こえた。
「なぁ、爆豪。俺、もう挿入れたい」
「ん、ぁ……、ぅ」
「爆豪の中に入って、ぐちゃぐちゃになるくらい、おめぇのこと抱きつぶしてぇ」
 腹を撫でていた手が下がり、指先が後孔の縁を撫でる。あ、と爆豪は大きく肩を震わせた。肩だけじゃない。自分の意思とは反して、ひくりひくりと後孔が反応するのがわかってしまい、爆豪は、うぅ、と呻いた。
「爆豪、なぁ、爆豪は? 俺の欲しい?」
 切島が、意地悪く訊いてくる。
 そんなこと言わせるな。いつもの爆豪だったらそう返しただろう。しかし爆豪は、喉を鳴らして口を開く。
「…………、ぃ」
「んん? なんだ? 爆豪」
「ぅ、…………し、ぃ」
「爆豪、もう少し大きな声で」
「っ、…………ほ……、しいっ、きりしまっ」
「よし、よく言えました」
 偉い偉いと切島が褒める。ともすれば馬鹿にしているのではないかと感じてしまいそうになるが、こちらを見つめ続ける切島の目からはそんな意図は一切感じられなかった。欲と慈愛が半々に含まれたような熱い眼差し。爆豪はたまらずくり返した。
「きりしま、ぁ、はやく……、ほし、ぃ、から、はやく……ッ」
「っ、……あぁ、すぐにやるよ爆豪」
 ぐぐぐ、と切島の眉間にしわが寄り、口端が上がる。眼差しに含まれていた熱が一気に膨れ上がり、後孔にそれこそ火傷してしまいそうなほどに熱い性器が宛がわれた。期待に喉を鳴らす。その次の瞬間、ぐ、と縁を広げられたかと思えば奥まで一気に突き入れられた。

「ひッ、あぁ、んんッ!!」
 がつん、と強い衝撃に襲われて、爆豪は叫んだ。
 ひゅっ、と息が詰まる。なんとか息を吐こうとするも、息が整う間もなく激しく突き上げられて、爆豪はさらに大きく声を上げた。いつもは挿入れた後に落ち着くまでの間を入れてくれるはずなのに、ほんの一瞬だってそんな余裕はなかった。
「あぅッ、あっ……! んあ……ッ! ちょ、ま、きりっ、しま! あっ! あッ!」
「わりぃ、爆豪。余裕ぶってみたけど、やっぱあんま余裕ねぇわ……っ」
 おめぇがあんまりにも可愛いから。
 切島は息を荒げながら、容赦なくピストンをくり返す。ぱちゅ、ぱちゅ、と音が響いて、そのたびに目の前がフラッシュでも浴びせられたように激しく明滅する。
「あッ、あん、あ、ひぅ……ひ、あっ!!」
「はぁ、はッ……、爆豪、ばくごうッ」
「あぁああッ、やっ、っっっ、き、ぃ、しあッ! んあぁッ!」
 切島の攻めは激しい。しかし、そんな激しい攻めも爆豪の後孔はがっちりと深く切島を受け入れていた。まるで切島のためだけにあつらえたように中は隙間なくぴったりと埋まり、切島のものが行き交うたびにごりごりと良いところを満遍なく容赦なく擦り上げられる。
「あうッ、あァッ、……ッあ、ん、くぅ、あああぁあっ!!」
 いつもの徐々に追い上げていく快感ではなく、初めからトップスピードで無茶苦茶にかき混ぜられるような快感に、爆豪は悲鳴のような声をあげることしかできなかった。
「きりッ、し、っあ……! あっ、はッ、あぁ!」
「爆豪っ、はっ、平気、か? 俺のことっ、怖くねぇ……っ?」
「あぁ、んっ……くっ! 」
 切島は問いかけてくるが、答えることなどできるはずがなかった。思いっきり切島の背中にすがりつき、爪を立てる。
「爆豪っ、ちゃんと、目ェ開けろ、って!」
 気がついたら、また強く目を瞑っていたらしい。
 強く促す言葉に目を開ければ、額に汗をいっぱいに浮かべた切島の顔が見えた。はッ、はッ、と息が荒い。切島は欲にまみれた男の表情をしていた。獰猛な獣を思わせる、激しい表情。
 爆豪はその表情を認識した瞬間、あ、と思った。くる。そう思った。

「ひッ、ぅっ、く、あぁあッッッ――――!!!」
 ばちっ、と目の前が白く弾ける。びりびりと電流のような衝撃が全身を巡って、身体が痙攣するように震えた。呼吸すらできないような、溢れだす感覚に爆豪は目を見開き背中を大きくのけぞらせながら絶頂した。
「ぐ、ぅ……く、っ」
 切島が強く歯を噛みしめる。それでも殺しきれない呻き声を漏らしながら、切島は強く腰を押しつけてきて、さらに爆豪は身体を跳ねさせた。きゅうぅぅ、とした切ない感覚が下腹を襲い、同時に熱いものが最奥にふたたび注がれるのを感じた。
「あっ……ぅ、……は、ァっ……んぁ!」
「はっ、はっ、っはあ、爆豪……」
「んぅ……、ぁ、……はっ、はぁ、っは、ぁ」
 爆豪は荒く呼吸をくり返した。
 ようやく力を失った切島のものがずるりと中から抜けていく。だというのに、じわじわとした快感が続いて、震えが止まらなかった。切島が労わるように身体を撫でるだけでも、爪先が跳ね上がる。
「や、めろ、触んな……」
「爆豪……?」
 落ち着かぬ爆豪に切島は首をかしげる。
 だが、すぐに、はっ、と視線を下げると、爆豪の下半身を見てごくりと喉を鳴らした。イったと、確かにそう思ったのに、爆豪の性器はいまだ萎えることなく勃起したままだった。
「もしかして爆豪、中でイった?」
「ぅッ……、あ?」
「〜〜〜っあぁもう! まじえっろいよなぁ! おめぇはよぉ!」
「っ、うるせ、ぇああ、んッ!?」
 しみじみ言う切島に文句を言おうとした瞬間、切島の手が爆豪のものに触れてきた。もう終わったものだと思いっきり油断していた爆豪は急に襲ってきた刺激に大きく喘いだ。
「て、めぇ、ば、ばか……っ、触んじゃ、んあぁあッ!!」
「いいや、でも、ちゃんと吐きだしておきたいだろ?」
「ひゃ、あ、んくっ……、あっ! もう、いい……って、ぁッ!」
 静止の声を上げたが切島はするすると優しい手つきで撫でくる。たったそれだけだが、イったばかりの身体には十分すぎる刺激だ。むしろ辛いほどに。
「あっ、あっ、ふ、ぅう……っ」
「ほら、爆豪。全部出しちまおうぜ?」
「や、だ……ぁ! きりしまッ、ぁ、やめ、ろ、って、あっ、んん……!」
「大丈夫だから、なっ? 俺の手だけに集中してろって」
 切島は逃げるように身じろぎをする爆豪の身体を片手で抑えつけ、もう片方の手で爆豪のものをちゅこちゅこと扱きあげた。いやいやと爆豪は首を横に振ったが、凹凸のはっきりとした大きな手のひらはやはり止まってはくれない。
 追い詰められていく。どんどん、どんどん高みに。
「あ、あっ、あッ、ひぁ、んんんんッッッ!!」
 抵抗は長く続けることはできなかった。ぐうぅぅ、と根元から強めに扱きあげられた瞬間、どくり、と心臓を大きく鼓動し、爆豪は続けざまの絶頂を味わった。


「ばくごぉ、気持ち良かったなあ」
「はっ、ぁ……、はっぁ、っ……、く、そが……」
 爆豪はぐったりと全身を弛緩させ、シーツに頬をすり寄せた。
 上機嫌で懐いてくる切島に言いたいことは山ほどあったが、実際に文句を言うだけの気力も体力も残されてはいなかった。急速に押し寄せてくる倦怠感にしぱしぱと瞬きをくり返す。疲れた。すごく疲れた。
「寝ちまっていいぜ。あとは俺がやっておくからさ」
「…………ん、ぅ」
 目元に、そっ、と口づけながら切島が囁き、汚れていないほうの手のひらで髪を根元からすくようにして頭を撫でてくる。優しい手つき。思わず目を瞑ってしまえばそのまま目を開くことは困難だった。
「…………、……」
「ん、おやすみ、爆豪」
 心地の良いまどろみ。
 爆豪は切島の気配をすぐ傍に感じながら、今度こそ夢の世界へとゆっくり意識を落とした。
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