「くそがぁあああ!!」 すさまじい爆豪の怒号が響いた。狭い部屋に、これでもかというほど大きく。 その表情はヴィランの如く凶悪なものだった。 「まじふざけてんじゃねぇぞ!!」 間髪入れずにさらに爆豪が怒鳴る。大声を通り越して耳に痛いほどだったが、文句を言うものはこの場にはいなかった。当然だろう、爆豪を除いた三人、切島と物間、そして鉄哲自身も心の底から思っていた。こんなふざけたことってあるか? と。 爆豪は忌々しそうに壁を蹴りつける。眩しいほどに真っ白な壁。その壁には短い文字が浮かんでいた。真っ白な壁とは正反対の真っ黒な文字でくっきりと。 『この部屋を出たくばセックスをしなければならない』 そう書かれていた。 なぜこんなことになったのか。 いまから少し前のことだ。鉄哲は物間と一緒に買い物のために寮を出ていた。日曜日。本をちょっとたくさん買いたいという物間の荷物持ちのためだ。なんで俺が、と思わなくもなかったが、まぁクラスメイトの頼みだし、仕方がない。 そんなこんなで、どっしりと本のつまった袋を二人で一つずつ手にしてさぁ帰るかと本屋を出たちょうどその時、鉄哲と物間は見知った二人の人物と偶然に鉢合わせた。それは切島と爆豪の二人だ。 「あっ、鉄哲と物間じゃねぇーか!」 先に声をかけてきたのは切島だった。 呼ばれた自身の名前に顔を向けると特徴的な赤髪が目に映って、おぉ、と鉄哲はすぐに足を止めた。 「切島じゃねぇーか。偶然だな!」 「お前らも買い物か?」 「俺っつーか、物間の買い物だ。俺はただの荷物持ちだ」 「おっ、なんだよ俺と一緒だな! 俺も荷物持ちしてる最中だぜ!」 ほら、と切島は片手を上げると、鉄哲にも覚えのあるスポーツショップのロゴがプリントされている紺色の袋を見せてきた。その横で爆豪はこちらに興味などない様子で、両手をポケットに突っ込んで突っ立っている。 「あ〜らら〜? 荷物持ちってことはそれは君じゃなくてそちらさんの荷物ってこと? いやだなぁ、どっかの誰かさんはその程度の荷物も持てないって言うわけ? いやぁ、流石体育祭1位さまは違いますねェ〜」 そんな爆豪にさっそくA組に対して強い対抗心を抱いている物間が嫌みったらしく声をかけた。同じB組の鉄哲ですら、まったく嫌な言い方すんなこいつ、と思ってしまう物言いに当然爆豪は眉間にしわを寄せて物間を睨んだ。 「あぁ? んだてめぇ」 「べつにぃ? その程度の荷物も持てないほど君の手は大切なものなんですねェ、と実感しただけだけど?」 「くそうぜぇ……。言っておくがな、俺はこいつが持ちたい持ちたいうるせぇから持たせてやってるだけだ」 「あーはいはい。そうですかそうですか」 「っ〜〜〜、おい、だから自分で持つって言っただろうが!」 「まぁまぁ、いいじゃねぇーかこれくらい!」 「満足してんのはてめぇ一人だけじゃねぇか!」 がおっ、と爆豪が吠える。そんな爆豪を切島はさらにまぁまぁとなだめ、物間は馬鹿にしたように笑い、鉄哲はそんな物間をこいつはまったく……、とすこし呆れた。 それはなんてことのない他愛ないやり取りだった。外で偶然出会うなんて珍しいことではあったが、取り立てて騒ぐほどに驚くようなことではなく、なんでもない日常の一部。 だが、非日常は突如として訪れるのであった。 「っ……?」 流石と言うべきか、はじめにそれに気がついたのは、爆豪であった。ぎゃあぎゃあと切島と物間を相手に吠えていたはずの爆豪がなにやら不審げな眼差しでふいに地面に視線を落としたのだ。 どうしたのだろうか。当然不思議に思った三人は爆豪の視線を追って地面に目を落とした。すると、唐突に地面に光る白い線のようなもの走った。それは四角い形で鉄哲たち四人を取り囲むように地面を素早く伸びる。 「あ? なんだッ?」 「ちょっと、これって……!?」 突然のことに爆豪も含めた四人の反応は一瞬遅れた。 無理もない。それほどに前兆などなにもなく突然だった。だが、その一瞬の反応の遅れがまずかった。なんだか知らないけどやばい、と四人が四人ともそう思い、取り囲まれた線の中から逃げようとしたその時には、鉄哲たちはもうその“部屋の中”へと閉じ込められてしまっていた。 |
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