ふにゅり、と最初はただ触れ合わせるだけの優しい口づけだった。唇で唇を撫でるように食み、時折、悪戯のように下唇を噛まれる。なんてことのない戯れのようなキス。けれど、なぜかそうしていると不思議と息が上がってくるのだ。
 どきどきと心臓が鼓動を速めていく。爆豪は、は、とちいさく息を吐いた。その拍子に薄く開いた唇からするりと相澤の舌が差し込まれる。突然舌先に触れたぬるりとした感触に爆豪は反射的に相澤の肩に手を添えた。だが、その手は正しくただ添えられるだけで、突き放したいのか、それとも縋りつきたいのか、自分でもわからずなんとも中途半端な形だった。
「ん、ふ……、ぁ、んぅ」
 差し込まれた相澤の舌は好き勝手に爆豪の口内を撫でまわしてくる。触れられていない箇所はないのではないかというほどに隅から隅までしつこく丁寧に。そのたびに、くちゅ、くちゅり、と音が鳴ってやけに羞恥心を煽られた。
 それでも舌と舌を絡ませ触れ合わせるのは、ただそれだけなのにひどく気持ちがよく、爆豪はされるがままに口づけのすべてを受け入れた。拙いながらも、自分からも意志を持って舌を絡ませる。そうすれば後頭部に添えられた相澤の手に微かに力がこもった。
「ん、ぅ……、ん、んく」
 どちらのものともわからぬ唾液が溢れて、爆豪は荒い息の合間になんとかそれをこくりと飲みこんだ。
 気がつけば、爆豪はソファの上で相澤に押し倒されるような形になっていた。口づけはどんどんと深いものへと変わる。くちゅり、くちゅり、と舌を絡められる水音は絶えることはなく、爆豪は合間に息をするだけでもいっぱいいっぱいだった。

「せ、ん……、せ……、ん、ぅ」
 ふわふわぞくぞくした感覚が気持ちいい。だが、流石の深さに次第に息が苦しくなってきて、爆豪は力の入らない手でくいくいと相澤の服の裾を引っ張った。
 相澤は、ちゅ、と最後に吸い付くように舌先を食んでからようやく爆豪を解放した。
「はぁ……、はっ、ぁ」
「まだまだ慣れねぇな」
「うっさい……、っぁ!?」
 唇を離しても至近距離のまま相澤はからかうように目を細め、爆豪は相澤とは逆に不機嫌に目を細めて、しかし、すぐに見開いた。なぜなら、相澤の片手が急に服の下へと潜りこみそのまま腰を撫でてきたのだ。
 手のひら全体で撫でまわすように、かと思えば指先が脇腹付近をするりとかすめる。くすぐったい感触にびくびくっと身体が跳ねる。その反応に相澤はくふりと口端を緩めて明確に笑う。
「っ、笑うな!」
 過敏に反応してしまった羞恥を誤魔化すように爆豪は声を荒げた。
「わるいわるい」
「そう思うんなら撫でんなや!」
「なんでだ、べつにいいだろこれくらい」
 脇腹を撫でる相澤の手は止まらず、そのせいで身体が跳ねてしまうのも止まらない。
「や、めろ……っ、くすぐってぇんだよ!」
「くすぐったいだけか?」
「あ? っぅあ、だからやめろって言ってんだろっ」
「悪いが、それは無理な話だ」
「はぁ? もうなんなんだよ」
 爆豪はふるふると震えながらも、目を細めて強く相澤を見た。
 深いキスの心地よさにうっかり流されかけたが、やはり今日の相澤はどこか変だ。こんなに積極的にべたべたと触ってくるなんて……。
「今日のあんた、まじのまじでおかしいぞ」
「まぁ、そうだろうな」
「なんだそれ」
「隠し通せるかと思ったが、そうか。お前にはわかるか」
「だからなんなんだよっ、その思わせぶりな口ぶりはよぉ」
 まるでこちらに説明する気のないとっちらかった言葉たちに、爆豪は不満をあらわに口端を下げた。そんな爆豪の不満をよそに、相澤は微かに笑みを浮かべたまま余裕しゃくしゃくな態度だ。
 なんだよ、と不機嫌にもう一度くり返せば、相澤は表情を緩めたまま言った。
「実はいまの俺はとある個性をかけられた状態だ」
「あ? …………っ、はぁああぁああ!?」
 それは先ほどのおかしな言動をさらに上回るほどの衝撃発言だった。
 あまりにもさらりとあっさりとした言い方に一瞬流しかけたが、一拍遅れて内容を受け止めた爆豪は心底驚いた。まじで、なにを言っているのだこの人は。個性をかけられている状態? それって、かなりとんでもない状態なのではないか。
「な、なん、はぁああっ?」
「落ち着け」
「うっせぇ! 落ち着けじゃねェよ! んだよ個性がかけられた状態って!」
「昨晩、学校近くでヴィランが出てな、俺たち雄英のヒーローが対処に当たった」
「ヴィランって……」
 まさかヴィラン連合かと爆豪は緊張に身を固くしかけたが、相澤は首を横に振った。
「つっても、そのヴィラン自体は大したやつじゃなかった。お前が思ったように、ヴィラン連合のこともあって俺も向かったんだが、なんの関係もないチンピラ上がりの雑魚ヴィランだった」
「で? あんたはその雑魚ヴィランの個性にかかったと」
「……まぁ、そういうことだな」
 ヴィランの個性を喰らってしまった不覚にか、緩めた表情を引っ込めて相澤は少しばつの悪そうな顔をした。
「大丈夫なのかよ、そのヴィランの個性なんか喰らっちまって」
「あぁ、身体には害はない」
「けど、あんたは今日休んだ」
 それは休まざるを得ない理由があったからだ。
 爆豪は眉をひそめた。身体には害がないと言う通り相澤の身に異変があるようには見えないが、大丈夫なのだろうか。あらためて心配になり、まじまじと相澤の全身に目をやれば、そんな爆豪を見て相澤は安心させるように頬を撫でてきた。
「身体に害はないと言っただろう。俺が今日休んだのは、今朝、眠すぎてベッドから出たくない衝動を抑えられなかったからだ」
「はぁ? ……あんた、ふざけてんのか?」
「違う、そういう効果なんだよ。やりたくないことはそれがやらなくちゃいけないことでも絶対にやりたくなくなって、逆にやりたいことはなにがあってもやり遂げたくなる、そんな個性」
 なんだその個性と思ったが、その瞬間に思いだしたように腹を撫でられて、爆豪は身を震わせた。そして現在の体勢を思いだしてぶわっと汗をかいた。この体勢、なんか、なんか……、すごくあれじゃないか?
「で、まぁ、そういうわけだ」
「いやッ、どういうわけだよ! あんたがその個性にかけられたからって、なんで急にこんなことになってんだよ!」
「だから言っただろ。やりたいと思ったことはなにがあってもやり遂げたくなるんだよ」
 するすると相澤の手は爆豪の腹を撫で続ける。いい加減飽きないのかと、そう思ってしまうくらいにしつこく。
「なん、だよそれ……、そんじゃあ、なにか? こんな風にべたべたすることが、いまのあんたのやりたいことだって言うのか?」
 言いながら、いや、でも、そんなまさか、と爆豪は思った。

 だって、相澤はそういうタイプの人間ではないなにかと距離の近い切島だとか、やたらと人の肩に手を回してくる上鳴だとかとは全く正反対なタイプの人間。
 爆豪は相澤と恋人関係ではあるが、あまりそういった触れ合うようなスキンシップは多くはない。せいぜい、爆豪が相澤の身体を背もたれにしてくつろいだりだとか、相澤が猫でも撫でるように気まぐれに爆豪の髪を触れたりだとか、その程度だ。時折、恋人らしくキスを交わすことはあるが、それだって爆豪がこっそりねだるのを相澤が答える形で交わされることが多かった。
 不満はない。多少のもどかしさはあったが、自分がこの学校の生徒であるうちは仕方がないことだと理解していたし、少し低めの相澤の体温を傍に感じるだけでも爆豪は十分に満足だった。ぬるま湯につかるようなゆるゆるとした心地よさが好きだった。
 きっと、見るからにガツガツしたタイプではない相澤もそういった温く緩やかな接触を好む人間なのだろう。爆豪はそう思っていた。

「たしかに、俺は人との接触は好きじゃないタイプの人間だ」
 実際、相澤は爆豪の考えていることを肯定するようにそう言った。
 爆豪はそうだろうそうだろうと頷く。
「だがな、」
「?」
「俺にだって、好きな奴に思う存分触れたい欲求ぐらいはある」
 けれど、続けられた相澤の言葉に爆豪は固まった。
 どうも今日はことごとく相澤の言っている言葉の意味がすんなりと頭に入ってこない。返事を返すこともできず、呆然としていると爆豪が硬直から回復するより早く相澤がふたたび口づけてきた。
「ぁ、ふ……、んん」
 またしても深い深い口づけだった。
 押し返すべきか、受け入れるべきか。迷った手は先ほどと同じように中途半端に相澤の肩を掴み、好き勝手に口内を撫でる厚い舌に爆豪ははふはふと必死に呼吸をくり返した。ふわふわとした気持ち良さに目を細める。
 そのキスの最中のことだった。ふいに相澤の手がスウェットの中へと侵入し、あろうことか爆豪の中心に指を絡めてきた。
「んぅあ……!? ん、あッ、……!?」
 突然の感触に、かっ、と爆豪は目を見開き、飛び上がらん勢いで大きく身体を跳ねさせた。
 なにすんだ! と言いたかったが、口づけられたままではなにも言うことはできず、ならばと今度は明確な意志を持って相澤の肩を押すが、のしかかってくる身体はびくともしい。
 爆豪の抵抗に気がついてないはずはないだろうに、相澤は手のひら全体で爆豪の性器を包むと、そのまま根元からゆっくりと撫で上げてきた。優しく、何度も。そのせいで、あっという間に爆豪の性器は膨らんでいった。
「せ、んせ、ぃッ、あ……っ、やめ、んっ」
「なんでだ?」
「なんで、って……、ぁ、んんっ」
 なんとかして口づけの合間に静止の声を上げるが、相澤はわざとらしく首をかしげる。その間も、しゅるしゅると扱く手を止めはしない。
 今までにないほどに直接的な愛撫に爆豪の頭は動揺でいっぱいになった。けれど、それ以上に、ちゅ、ちゅ、とキスを落とされながら優しく中心を扱かれる感覚が素直に気持ち良くて仕方がなく、無意識のうちにまるで強請るようにして腰が揺れてしまう。
「ぅあ、あ……!」
 次第に相澤が手を上下させるたびにちゅくちゅくと濡れた水音が鳴りはじめた。
「濡れてきたな」
「く、そッ、言う、な……、んぅ」
「照れんな、大丈夫だから」
「なに、が、あぅ!」
 時折、ぐ、と軽く力を入れられて、きゅうと足先が丸まった。全身に力が入って、力を込めすぎた太ももが痙攣するようにふるふると震える。
「ぅ……、んんっ、んぁ」
 こんな風に、誰かに性器を触られるなんて初めての経験だった。年ごろであるのだから自慰の一つや二つくらいはするが、誰かからされる手淫は己でするそれとは全くリズムもタイミングも違っていて、普段だったら出ないような声がぽろぽろと零れてしまう。
「ひぅ……ッ、せん、せっ、せんせ……!」
「ん、なんだ?」
「ぁ、う……、ん、ぅ……、あっ、せんせっ、も、もう、だめ、だって……ッ」
「なにがだめなんだ」
「ッ〜〜〜、もう、イ、イっちまう、から、ぁっ!」
 だからもうやめてくれと爆豪が願ったが、相澤は聞いてはくれない。
「なら我慢するな、そのままイけばいい」
「んぅ、ん……、ぁ、で、も――っ」
「いいから」
 それどころか相澤は扱く手を速めた。先走りがどんどんと溢れて、くちゅりと粘度のある水音がさらにいやらしく耳に届く。恥ずかしい音だ。そう思うのに、あぁでも気持ちがいい。相澤の手。大きくて、少しかさつき、傷ついた手。気持ちがいい。とても、とても。
「ほら、イけ」
「あ、あ、……ひっ、ぁッ〜〜〜!」
 先走りでてらてらと濡れる先っぽを、ぎゅ、と握られて、爆豪はひゅっと喉を鳴らした。だめだ。イってはダメだ。そう思うのに、しかし耐えがたいほどに強い射精感とそれを促す相澤のかすれた声に爆豪はそのままびゅるりと勢いよく熱を吐きだした。

 ぜぇぜぇと爆豪は荒く息をくり返した。全力疾走をした後のように心臓がどくどくとうるさく、喉が痛い。全身から力が抜けいく。もうすでにソファに横たわっている状態だったが、爆豪はさらにぐったりとその身体をソファに沈めた。
「ふ、ぅ……、ふっ、ぁ」
「爆豪」
「ぅ、あ?」
 そんな脱力しきった爆を相澤は引き寄せてその腕へと抱え込んだ。名前を呼んだくせに、その先を言わないまま、ぎゅ、と抱きしめてくる。爆豪は吐精後独特の倦怠感に、されるがまま相澤に身体を預け、その首元に頬をよせた。
 しばらくして爆豪を抱えたまま、相澤が立ち上がる。汚れてしまった下半身に風呂場にでも連れていってくれるのだろうか。爆豪はそう思った。だが、ぺたりぺたりと歩き出した相澤が向かったのは風呂場ではなかった。
 むしろ風呂場から正反対の方向、人ひとり抱えているにもかかわらず普段とまるで変わらない足取りで相澤が向かったのは彼自身の寝室であった。
「ぁ……?」
 あれ、と思っているうちにベッドの上にそっと降ろされる。背中に触れるソファの柔らかさとはまた違ったふわふわとした感触に爆豪は目を見張った。
 そういう関係になってから相澤の部屋にはもう何度となく来たことがある。こっそりと、何回も。けれど、何回もこの部屋に訪れたことはあっても、寝室にまで入れてもらうのは今この瞬間が初めてだった。
 相澤に頭を撫でてもらうのも、相澤にキスをねだるのも、いつだってリビングのソファの上で。寝室には入ってはならない、そこはまだ超えてはならぬラインなのだと、直接聞いたわけでも説明されたわけでもないが、暗黙の了解として爆豪は理解していた。
 そのはず、だったのに……。

 どう言うことなのかと混乱している間に相澤が爆豪の上にのしかかってきた。そのまま顔を寄せてくる。またキスをするのかと思ったら、相澤は爆豪の首筋に口づけをひとつふたつと落とした。触れるだけだったり、ちぅと少し強く吸われたり、かと思えば舌先でくすぐるように舐めたりと獣じみた愛撫をくり返される。
「ぅ……、ぁっ」
 そのたびに、爆豪はびくりびくりと何度も身体を震わせた。反応したいわけじゃないのに、勝手にそうなってしまう。説明しがたいようなぞわぞわとした感覚が背筋を走って、思わず爆豪は身を寄せる相澤を振り払うように首を振った。
「どうした」
「ど、どうしたじゃねぇだろ!」
「なにがだ」
「あんたのかけられた個性やっぱだいぶまずいもんなんじゃねぇか!?」
「なんだ、どうしてそう思う」
「だってそうだろうが! 今日のあんた、個性のせいにしたっておかしすぎんだよ!」
「おかしくねぇよ」
「いいや、おかしい! だって、じゃなきゃ、あんたが、あ、あんなこと……ッ!」
「するはずがない、か?」
「だ、だって、そうだろ……、いままで、こんなこと、こんな触り方したことなんかなかったじゃねぇか!」
 あまりの気持ち良さにうっかり流されてしまったが、今までの関係から考えれば明らかに先ほどの手淫はおかしいものだ。
 爆豪に触れる相澤の手はいつだって猫を撫でるように優しく穏やかな手つきをしていた。心地よさに目を細めていつまでも享受していたくなるような、そんな優しい手つき。こんな全身がびくびくと跳ね上がってしまうような性的な触り方はありはしなかった。

 そもそも、爆豪はいままで一度だって相澤から性的な雰囲気を感じることはなかった。二人でキスを交わして爆豪がそのキスに頬を染めて息を乱すようなことはあっても、相澤はいつもけろりとした余裕な態度のまま、息の一つだって乱すことはなく、その黒い目に欲望の色が浮かぶことすらない。理性的な眼差しで爆豪を見つめて、今日はここまでだと告げる。悔しいほどに自分は子どもで、そして悔しいほどに相澤はいつだって大人だった。
 けれど、だからこそ爆豪は安心していた。揺らぐことのない大人の強さ。頼ってもいい。寄りかかってもいい。素っ気なく見えて、でも実は弱った時には優しく包みこんでくれる人。誰かに頼るのが嫌いで、人の手を取るのが苦手な爆豪が唯一、自分の弱いところをちょっとだけ曝け出せる人。そんな絶対的な信頼を爆豪は相澤に寄せていた。
 だというのにいまの相澤はそんな今までの相澤とはまるで違う雰囲気をまとっていて爆豪は動揺が収まらない。様子がいつもと比べておかしいのは個性のせいだというのはわかった。だが、それにしても相澤の変貌はおかしい。
 過剰な愛撫に、甘い口づけ。いやらしい指先の動きに、開け放たれた寝室の扉。そしてやけに色濃い性のにおい。なにひとつとっても全然、全然相澤らしくない。さっきの個性の説明だけでは到底説明できないような変わりようだ。爆豪はそう思った。

「っ、とにかく、あんたもう一回ちゃんかけられた個性の効果調べてもらえよ!」
「大丈夫だって言ってんだろ」
「なんで、んな楽観視してんだよあんたは!」
 こんだけ人がおかしいと言っているのに、どうしてそんなにきっぱりと大丈夫だと言いきれるのか。不思議で仕方がない。まさか、冷静な判断すらできないほどにおかしくなっているのか。
「おかしくねぇんだよ、爆豪」
 しかし、相澤は依然としてそう言い切った。
「、でも……、でもっ」
「おかしくねぇ。ただ、お前にはずっと隠してきただけだ」
「…………隠して?」
「そうだ」
 頷きながら相澤は顔を寄せると触れるだけのキスを一つ、唇に落としてきた。
「嫌か?」
 いくらか前にもされた同じ問いかけに爆豪は無言のまま首を横に振った。嫌ではない。嫌であるはずがない。当たり前だ。だって、好きなのだから。
「爆豪」
 相澤が呼ぶ。爆豪の名前を、低くかすれた声で。
 そしてさらに身を寄せてくる。身体と身体が密着する。すると、足になにか固い感触を感じた。え、と思って視線を落とせば、相澤の黒いスウェットの股間部分が緩やかに盛り上がっていて、爆豪は目を見開いた。
「あ、え……、え、先生、な、なんで、勃って……ッ?」
「こんだけお前に触ってりゃそりゃ勃ちもする」
「へぁ……!?」
 思わず変な声が出た。
 勃つ? 相澤が? あの相澤先生が、自分に……?
「あんた、お、俺で勃つのかよ」
「……お前なぁ、俺たちの関係はなんだ? 言ってみろ」
「きょ、教師と生徒……」
「それだけか?」
「教師と生徒で、そんで……、こ、恋人」
「そうだ。で、男が恋人に触れて勃起すんのはそんなにおかしなことか?」
「ぉ、かしく……、は、ねぇ」
 一つ一つを丁寧に確認するように問われて、爆豪は言葉に詰まりながらも答えた。
 そうだ。先生の言う通り、べつにおかしなことではない。恋人同士が触れ合うのも、その触れあいで身体が反応するのもおかしなことではない。教師と生徒であろうと、男同士であろうと恋人なのだ。だったら、なにもおかしくはない。一つもおかしくない。
(そうか……)
 爆豪はじわじわとゆっくり実感した。
(先生、俺で勃つんか……)
(俺で……、勃つ、んだ)
 足に触れた感触は固いまま。
 先生が、あの相澤が自分に対して性的興奮を覚えて勃起している。

「……っ」
 その事実を実感した瞬間だった。爆豪はいままでにないほどにぞくりとした感覚が腹の底から沸き上がってくるのを感じた。ただでさえ熱くなっていた身体が、さらに熱くなっていく。焼いた石でも飲みこんでしまったかのように内からどんどんと。
 苦しいほどの熱さだった。どうにかして体内の熱を逃がそうと、はあ、と爆豪は大きく息を吐いた。だが、それくらいではちっとも下がってくれる気配はない。
「は、ぁ……、ぅぁ、せ、先生っ」
 一体急にどうしてしまったというのか。自分の身体のことだというのにまったく意味がわからなくて、爆豪は助けを求めるように相澤に手を伸ばし、腕をきゅうと掴んだ。
「どうした、爆豪」
「わ、わかんねっ、けど、なんか、すげぇ、あつい……」
「あつい?」
「腹の、底のほう……、すっげぇ、あつい」
「そう、か……」
 爆豪の言葉に相澤は目を細めた。ぎらぎらとしたなにかがその目に宿る。けれど、爆豪はそれに気がつくことはできなかった。全身を焼き尽くさんばかりの熱をどうにかしてほしくて仕方なく、先生、先生、と何度も相澤を呼んだ。
「せ、んせい……、あつい、あついッ」
 あまりに熱さに身をよじる。ぎゅう、と強く目を瞑れば、いつの間にか浮かんでいたらしい涙が目尻を濡らした。泣きたくなんてないのに、まるで自分がコントロールできない。なにひとつ思い通りにならない身体に恐怖心すら覚えるほどに。
「なぁ、せんせぇっ」
「大丈夫だ、爆豪」
 相澤の声はどこまでもひどく優しかった。
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