服を脱がされても全然涼しくならない身体に爆豪は、はっ、はっ、と途切れ途切れに呼吸をくり返した。熱い暑いあつい。
「せんせ、ぃ」
「わかってる、大丈夫だ」
 相澤の手のひらがなだめるように丸裸になった爆豪の腹を直に撫でる。優しい仕草で何度も何度も。だが、それでも熱が引くことはなかった。むしろ、相澤が撫でれば撫でるだけさらに熱が上がっていくような、そんな気すらした。
「ふ、ぅ……、ぁ」
 くすぐったいような、ぞわぞわと震えるような感覚に爆豪は何度も落ち着きなく身体をよじらせた。するすると意味もなく足がシーツの上を滑る。いまはもう性器には直接触れられていないのに、うっかり漏れてしまいそうになる声を抑えるのに苦労した。
 少しずつ、相澤の手は腹から腰へ、そして足の付け根へと下がっていく。際どいところを掠めていって、爆豪はいつの間にか口内に溜まっていた唾をこくりと飲みこんだ。次に相澤が触れる場所を、どきどきと待つ。不安か、期待か、自分でもわからない。

 爆豪は相澤の手の動きをじっと目で追っていたが途中で耐えきれずに目をつぶった。
 しかし、その瞬間だった。あらぬところにあらぬ感触を感じて、つぶったばかりの目を見開いた。
「あ、どこ触って……!?」
「どこって……」
「へ、変なとこ触んなよ!」
「なんだ、知らないのか。男同士はここを使うんだぞ」
 ここ、と言いながら、その場所を、相澤の指先がとんとんと突く。
 その場所は率直に言うと爆豪の尻の穴であった。予期せぬ感触に爆豪は思わず、ひぅ、といままで出したことのないような声を出しながら肩をすくめた。
「そうか、知らねぇのかお前……」
 そんな爆豪を見て、相澤はしみじみとした様子でぽつりと呟く。
「っ、ばかにすんな! お、男同士が尻の穴でするくらい知っとるわ!」
 爆豪はすぐさま反論した。思いのほか無知だったのだなとでも言いたげなその反応に腹が立った。馬鹿にすんなよちくしょうが。それくらいちゃんと知っているに決まっているだろう。
 たしかに、少し前までの爆豪であったら男同士のやり方など微塵も知らなかった。それでも、相澤と奇跡的に想いを通じ合わせ恋人としての関係を築くことになって爆豪なりに少し勉強をしたのだ。男同士の付き合い方、注意事項、体験談、そしてセックスの仕方。
「なら、大丈夫だな」
「え、あ? おう? …………あ?」
 あっさりと頷く相澤に反射的に頷き返して、そこで爆豪ははっとした。
 男同士のセックスは尻の穴を使う。そしていま、爆豪の後孔に相澤の指先が触れている。それは、つまりは……。
(セッ、クス……、すんのか? 俺とこの人が?)
 驚愕に呆然としていると、ちょっと待ってろ、と言って相澤は爆豪に覆いかぶさるようにしていた身を起こし、ベッドサイドの引きだしからなにかを取りだした。チューブ状のなにか。相澤はそれの蓋を開けると指先にその中身をたっぷりと塗りつける。
「……せんせい?」
 それがなんなのかよく見ようと、爆豪は力の入らない身体をなんとか起こそうとしたが、起き上がるよりも早く、相澤がふたたび覆いかぶさってきた。そのまま、顔が近づいてきて口端にキスを落とされる。
「ん……」
 反射的に目を瞑る。温かく優しい慣れた唇の感触に少し気が落ち着く。
「んあぅ……っ!?」
 だが、それは本当に束の間の安息であった。相澤の指先がまたしても尻の穴に触れてきて、爆豪はびくっと身体を跳ねさせた。しかもそれだけでは飽き足らず、ぐ、と指を埋め込むようにして後孔を押されて、先ほどと同じように変な風に声を上げてしまった。形容しがたい感覚がそこから一気に脳天にまで走ってきて、ぶわり、と腕に鳥肌が立つ。
「ぅ、く」
「痛いか?」
「い、たく……、ねぇよ」
 けれど、物凄い圧迫感だった。たったの指一本。しかもほんの先っぽだけ。そのはずであるのにきゅうと眉間にしわを寄せずにはいられないほどの圧迫感が爆豪の身を襲った。できることなら、いますぐにでも指を抜いてほしい。
 しかし相澤は痛くはないという爆豪の言葉にそうかと頷くとさらに、ぐ、と指を中へと押し進めてきた。くちり、と相澤の手もとからちいさな水音が聞こえてくる。ぬるりとした感触になにかが塗られているらしいとわかったが、それがなんなのかまで考える余裕はなかった。

 ゆっくりと指は肉壁の中を押し進み、やがて指の根元が縁に当たる。それだけでもういっぱいいっぱいであるというのに、そのいっぱいいっぱいである内部を探るかのように指先を動かされて爆豪はうめいた。
「先生、や、めろ……、あっ、ぐ、やめ……!」
「少し我慢しろ」
「ふざけ、んぐ……、く、ぅう!」
「おいこら、唇は噛むな。傷になるだろ」
「なら、やめっ、ろ、よ……ぅくッ」
「それは無理だ、ちゃんと解さねぇとだめだろ」
「なにが、あっ!」
 ふいに爆豪は大きく声が跳ね上げ、さらに、びくっ、と足を跳ねさせた。どちらも自分の意志で跳ね上げたのではない。相澤の指が爆豪の中のある一点に触れた瞬間、いきなり勝手に跳ね上がったのだ。びりりっ、と全身を一瞬走った、なにか。
「あっ、な、なにっ?」
「…………」
「ひぅッ、ん、あ!」
「ここか」
 ふむ、と相澤が頷く。なんのことだが、爆豪はわからない。
 とある一点を、ぐ、ぐ、と連続で押されては、びり、びり、となにかが全身を走り続け、そのたびに我慢できない声が口から飛び出してしまう。
「あ、あ、なにっ、なんだ、よッ!?」
「前立腺だ」
「ぜ、ん……?」
「そうだ」
「ひゃあぅ! あっ、なんッ、〜〜っ、やっ、やだ! そ、そこ、なんか、ぃやだ!」
「やだって……、まさかお前、前立腺がなんなのかわからないのか?」
「っ、うっさい!! あッ!」
 図星だった。

 じつは言うと、男同士は尻の穴でセックスをするとは知っているものの、それ以上のことを爆豪は全く知らないでいた。なぜなのか。それは正直に言ってしまうと恥ずかしかったからだ。想いを通じ合わせたばかりですぐにそう言うことに手を出すのも、相澤とそう言うことをする想像をするのも、なにもかもが気恥ずかしかった。
 だから爆豪は途中で調べるのをやめた。そもそも、いずれ本格的にそういうことをすることになるとしてもどうせ最低二年はかかるはずだ。低いテンションとやる気のない口調のせいでどこか不真面目に見える相澤だが、その実とても真面目な人間だと言うことを爆豪は知っていた。
 自身が学生のうちは手を出してくれることはないだろうという予想を爆豪は割と早い段階でしていた。実際、その予想は的中した。結果として爆豪はそう言った知識を急いで無理に調べる必要はないとそう判断したのだ。
 その時までにしっかり知識として備えておけばいい。いまはただぬるま湯に使っているかのように優しく緩やかな関係を享受すればいい。そうやって少しずつ相澤との仲に慣れれば、そう言うことを調べる耐久もついてくるはずだ。

 そんなふうに考えていたから、爆豪はよく知らなかった。男同士のセックスのこと。そしてまったく予想もしていなかった。相澤と実際にセックスをすることでいったい自分がどうなってしまうのか。


「ぅあ、あ……、んぐ、ぅ」
 やだやだとくり返す爆豪の言葉をまったく聞いてくれることはなく、相澤はしつこく爆豪の中をいじくりまわした。一本だった指が二本へ増え、さらに三本へと増やしながらぐちぐちとやけに耳障りな音を立てながら念入りに。
「そろそろ、いいか……」
 そう相澤が言ったころには爆豪は全身を真っ赤に染め上げ、最初は一本だけでも苦しくて仕方なかったはずの後孔はすっかりとぐずぐずに解されきっていた。指を引き抜かれた後も完全に閉じることはなく、縁がひくりと物欲しげに震えてしまう。
 はぁはぁと必死に息を整える爆豪を横目に相澤が服を脱ぐ。自分と少し似た、あまり日に焼けていない身体は、しかし爆豪とはまるで違う形をしていた。痩せているように見えて、しっかりと割れた腹筋に広い肩幅、ところどころには薄い傷跡のようなものが残っていて、いままでのヒーローとしての活躍を察せられる。
 大人の身体。プロヒーローの身体。状況が状況でなければ、相澤の訓練方法や過去の戦闘体験の話を聞きたいところだったが、とてもじゃないがそんな状況じゃなく、爆豪の意識はあらわになった相澤の性器へとすっかり意識を奪われていた。
「ぅ、ぁ……っ」
 爆豪のものよりも色濃く太い相澤の性器はそこまでもしっかりとした大人の形をしていた。ばきばきに血管を浮かばせながら力強く天へとそそり立ち、相澤の欲望をこれでもかというほどに爆豪に伝えてくる。
 本当に勃っている。あの相澤が、自分に対して、性器を勃起させている。
「せん、せい」
「力、抜いてろ」
 けっきょく、まるで息を整えられないまま、後孔に相澤がその勃起した性器を宛がってきた。シーツがひんやり冷たく感じるほどに全身は熱くなっているのに、それよりもさらに熱い感触。爆豪は、ひっ、と息を飲んだ。
「ぁ、ま、まて……っ、」
 咄嗟に制止の声を上げる。
「なんだ」
「い、れるのか? ほんとうに、そ、それ」
「ふっ、怖いか?」
「違う! 馬鹿にすんな! ……で、でも、その……、」
 怖いわけじゃない。そんな生娘みたいな繊細な怯えをこの自分が持っているはずがないだろう! ……ただ、そう、ただちょっと心の準備ができていないだけで、別に怖がっているわけではない!
 爆豪は心の中で必死にそんな言い訳をくり返しながらふるふると首を振った。だって、だって、そうだろう。だって、まさか、こんなことをすることになるなんて、相澤の連絡を受けて自室を出たころの爆豪はまるで予想になんてしていなかった。だから、なんの心構えもできてはいなかった。
 あれよあれよと相澤の手で射精させられた時点でもうだいぶ爆豪の頭は軽くパニックに陥っていたが、そこからさらに自分でも触ったことのないような場所を相澤の指先で愛撫された身体はひどく熱くて仕方がなく、思考は一向にまとまらない。だと言うのに、またさらにそこから相澤のものを受け入れて、せ、セックスをするなんて……!
 そんなの完全に爆豪のキャパシティを超えていた。ただでさえ前立腺なんて言うよく分からないものに身体が跳ねまくって、変な声が出てしまうというのに、これ以上なにかされたら、いったい自分はどうなってしまうのか。全然、わからない。
「ぁ、や、こんなん、こんなん、そんな、のっ、と、とにかく、待てよっ!」
 もはやなにを言いたいのか、自分でもよく分からないまま首を振る。とにかくいったん落ち着かせてほしかった。落ち着いて、冷静になって、現状をしっかりと把握したい。
「大丈夫だって言っただろ、任せておけ」
 だが、今日の相澤はどこまでも爆豪の制止を聞いてはくれなかった。
 台詞だけを見ればとても頼もしいが、いまの爆豪にとってはなにひとつとして救いにはならない。
「力、抜いてろ」
 先ほどと同じ言葉とともに、ずぷずぷ、と相澤の勃起しきった性器が後孔にゆっくりと挿入されていく。
「待てって、言って、う、あぅ、ぐ、ぅ……ッ!」
「っ、爆豪、力むな」
「あぐ、うぅ……、〜〜〜ッ」
 無茶言うなくそが! と思ったが、ゆっくりと中へと埋められ続ける熱の塊に爆豪はうめくことしかできなかった。指以上に太く、そしてなによりも熱い相澤の欲望が身体を犯していく。苦しい。すごく苦しい。
 けれど、苦しければ苦しいほどに、不思議と実感がわいてきた。相澤とセックスをしているという実感。ぎゅう、と強く目を瞑っても、外からも中からも相澤の気配を、熱を、ひしひしと感じる。
「ひ、あぅ――っ!!」
 そして、ぐぷり、と大きな音が鳴り、尻に相澤の肌が触れた。最後まで入ったのだ。身体の奥の本当の奥側にまで。
(せ、せんせい、のが……、入った)
(俺ん中に、先生のが)
(セックス、してんだ。俺と先生)
(俺、先生とセックスしちまった)
 パニックになっているはずの頭は、なぜかそこだけ冷静に認識する。
 すると今度は腹の底がきゅうと切なく震えた。

「は、あ……、ぅ、あ」
「爆豪、はっ、大丈夫か?」
 いささか息を荒くした相澤が尋ねる。爆豪は答えられなかった。大丈夫じゃない。全然大丈夫なんかじゃない。答える余裕もないほどに。
「ひぅッ、はっ、あ、はッ」
 息が詰まる。酸素が足りなくて、爆豪は何度も大きく息を吸った。
「ッ、ひ、ぅく、ぅ」
「おいこら、吸ってばかりいるな。ちゃんと吐け」
「ぅ、ぁ……」
「爆豪、ほらできるだろ」
 そう言って相澤は顔を寄せて、耳元にちぅと軽く口づけた。そしてそのまま爆豪の耳元でゆっくりと呼吸をくり返す。相澤の熱い吐息が耳をかすめ、そのたびに爆豪は喉を震わせた。
「は、ぁ……、はっ、」
 しかし、相澤の呼吸に釣られるようにして、徐々に呼吸を落ち着かせることができた。
 まだ腹の中から押しあげられるような圧迫感は強いが、呼吸が落ち着くにつれて息苦しさよりも腹の中で煮えたぎる熱のほうが、強く爆豪を苛ませてくる。
「大丈夫か?」
 再度聞かれて、爆豪は頷くでも首を振るでもなく、ぎゅうと相澤の腕に手を伸ばし縋った。
「あつい……、せんせ、あ、ついッ」
「っ爆豪」
「腹ん中、あ、さっきより、すげぇ熱くて……っ、なぁ、せんせぇ!」
 うわ言のようにくり返して、爆豪は相澤に訴えた。
 熱い。どうしようもないほどに熱い。はやく、なんとかしてほしい。はやく、早く早く!
「あまり煽るな、爆豪ッ」
「そ、んなの知らねぇっ、なぁ、なんとかっ、してくれよせんせぇ!」
「――くそ、まったくお前はどこまでもっ」
 相澤が吐き捨てるように言うが、爆豪はその言葉を最後まで聞くことはできなかった。
 ずぷぷ、と最奥まで突っ込まれた熱が一気に抜かれて、肉壁を擦られる強い感覚に爆豪は背中を反らせて大きくのけぞる。
「あぁ、あ、ぅ、〜〜〜っ!!」
「手加減、してやりたいところだったが……」
 そして、すぐさまずぷずぷと肉壁を掻き分けるようにして熱を埋め込まれる。
「あっ、ぐぅ!」
「痛かったら、言えよ」
「ぅく、ぁ、ぐぅ……」
 入っては出て、出てはまた入ってくる。そのたびに、縁からはぐちゅりぐちゅりと音が聞こえてきて、爆豪は何度も何度も全身を跳ねさせた。
 ぞくぞくと背筋が粟立つ。挿入と抜去をくり返すその速度自体はまだまだゆっくりとしたものだったが、はじめて男の欲望を受け入れた爆豪の中はたったそれだけでも敏感にすべての感覚を感じ取り、嫌というほどに相澤の形を伝えてくる。
「ん、あ! ぁ、せん、せいの、入ってる……、俺ん中、せんせい、のっ」
「だから、あまり煽るなと言ってるだろうに……!」
「んぅ……、はっ、あっ……、なァ、せん、せェッ、くる、しィ……、ぁ」
「……っ少し待て、爆豪」
「あ、ぅ、な、なに……?」
 中を馴染ませるようにゆるゆるとピストンをくり返していた相澤のものが、なにかを探るような動きへと変わる。なにをしているのか、爆豪にはさっぱりわからない。なにもできないまま、ただ無防備にその身を相澤に任せていた。相澤ならば、この全身を焦がす熱をどうにかしてくれるのだと信じて。
 そうやって、あぅあぅと言葉にならないような声を漏らしながらも耐えていると、相澤のものが爆豪の中のある一点をついてきた。
「ひあぁ、うッ!?」
 思わず、大きな声が出た。
 そこは指で解されているときもびりびりとした快感が走った場所だった。前立腺。相澤はそこを熱の先で押しつぶすようにぐりぐりと擦り上げてくる。
「ひゃ、あぅ、んん! あ、あっ、せんせっ、そこ……、そこ、やめっ」
「はっ、やっぱここが気持ちいいか?」
「ちがっ、あ……っ! そこ、……ッそこ、変! 変な、感じ、ぁ、するからァ!」
「変じゃねぇから安心しろ。それが気持ち良いって感覚だ」
 そう言うと相澤はその個所に狙いを定めて、腰を振った。

 ぐちゅ、ぐぷ、と水音がひっきりなしに鳴って、そうやって中を力強く一突きされるたびに頭のてっぺんからつま先まで一直線に針を刺されたかのような鋭い快感が全身に走った。いままで爆豪を苛んでいた熱すらも吹き飛ばしてしまうような強い快感。直接触られたわけでもないのに、気がつかぬうちに爆豪の性器は完全に勃起しきっており、相澤に身体を揺さぶられて一緒にふるふると揺れた。
「あっ、あッ、んぁ、あ、んんぁッ!」
 これでもかというくらいに声が出てしまう。
 なんとか声を抑えようと唇を噛めば、相澤がすぐにそれに目ざとく気がつき口づけを落としてくるせいで、爆豪の口からはひっきりなしに嬌声がこぼれた。
「せん、せっ、あ、ぅあっ、だめ、だめだって……、ひあっ!」
「だめじゃ、ないから、心配するな」
「あ、あっ、ぅあ……! やぁ、って、いって……んん!」
「……ふ、く」
「ひあぅッ」
 爆豪の身体はどこもかしこもが敏感になっていた。
 相澤が軽く吐いた息が肌を撫でるだけでも、声をこぼすのを抑えられない。自分自身がコントロールできず、挙句の果てには流したくもない涙がぽろりとこぼれた。
 なんてかっこ悪いのだろうか。爆豪は思った。あまりにも惨めな姿を晒している。あまりにもみっともない声を上げている。こんなんでは相澤にがっかりされてしまわないだろうか。一抹の不安が胸に浮かぶ。
「爆豪?」
「ぁ、く……、ふ、ぅう……ッ」
 爆豪は、きゅ、と眉間にしわを寄せた。その拍子に、さらにぽろぽろと涙がこぼれる。
ぐしぐしと腕で乱暴に拭うが止まらない。 
「おいこら、やめろ。目を痛めるぞ」
「ぅ、だ、って……」
「だってじゃない。……爆豪、余計なことは考える必要はない」
「……っ、せんせ?」
「いまは、なにも考えなくていい」
「あ、んん……っ」
 ぐぅ、と相澤が深く身を沈める。より奥にまで入り込んでくる熱に、爆豪は反射的に相澤と距離を離そうと腕を突っぱねたが、腕にはまったく力が入らない。むしろ逆に相澤に身体を強く引き寄せられてしまった。そのまま、ぎゅう、と背中を抱きこまれ、裸の胸と胸がくっつく。
 これでは自分の心臓がいまうるさいほどに激しく鼓動をくり返していることがばれてしまう。それでも、離れがたい体温に爆豪は突っぱねようとしたばかりだというのに腕を伸ばして相澤の首元にすがりついた。汗を掻いた二人の肌はしっとりと濡れていて、互いが互いに吸い付くような感触が心地いい。
「あ、ぅあ……?」
 そうして、ふと爆豪は気がついた。心地いい感触の中、くっつけた胸元から伝わる自分以外の鼓動の感触に。
「どうした」
 密かに混じった疑問の声に、相澤は爆豪を揺さぶりながら、優しく尋ねてきた。爆豪は顔を上げ、相澤を見た。そして、またも気がついた。相澤の額にうっすらと汗が浮かんでいることに。
 自分と一緒だ。爆豪は思った。良すぎる快感にばくばくと激しく鼓動をくり返す心臓に、熱い身体に止まらない汗。一緒だ。相澤が、自分と。
「せっ、せんせい、も……、うあ……、っ気持ち、いい? お、おれとの、ぁっ、せっくす……、きもちいっ?」
「……っ!」
 爆豪の問いかけに相澤は、はっ、と荒く息を吐いた。どうしたのか、そのまま律動が止まってしまう。爆豪は首をかしげた。相澤が止まってもじくじくと熱をはらみ続ける身体をもどかしげに震わせながら、相澤の顔を覗き込もうとしがみついていた首元から顔を離す。
 その瞬間、がつっ、と眼前に星が瞬いた、ような気がした。

「ッッッあぁあ!!」
 これ以上があるのか、というほどの衝撃だった。
「お前はっ、まったく……!」
「あぐッ、あっ、んあ! 」
「分かってて言ってんのか? くそッ」
「やあ、あっ! なにっ、なに、が、ぅあ――!」
 ぐちゅり、と大きく音が鳴ると同時に、ぱんっ、と肌と肌がぶつかる音が部屋に響き、さらにはぎしぎしとベッドが苦しそうな音を上げる。だが、その音の一つも爆豪の耳には届いていない。
「く、ぅあ、あッ! せんせっ、ああぁ、んんぅあ!」
 深いところを相澤のものが容赦なくがつがつと突いてくる。そのたびに目の前で、ちかっ、ちかっ、と星が瞬いて、足先がびくりびくりと痙攣するように跳ねた。くるしい、きもちいい、あつい。それらすべての感覚が腹の中をめちゃくちゃに激しく暴れまわっているよう。
「あぁ、あぁあッ、ひっ、いあ、あ! やらっ、もう、あッ、イく、イく、からァ!」
 自分自身と相澤との間に挟まれた爆豪の性器はもう限界までに膨れきっていた。だらだらと絶え間なく先走りを零しながら、いまかいまかとその瞬間を待ち望んでいる。しかし、こんなににも高まっているというのに、決定的なそれが足りない。
「せんせッ、あぐ、せんせっ、イきたい! んあ、あっ、イかせて、せんせぇ、な、ぁ、イかせッ、んあぁああっ!!」
「あぁ、すぐにイかせてやるっ」
 射精をねだる爆豪に相澤は深く笑った。教師らしからぬ、雄臭さを感じさせる笑み。
 あ、と思った時には、解放を望む爆豪に相澤の指が絡められた。そしてそのまま、容赦なく続けられる律動と合わせるようにちゅこちゅこと扱きあげる。
「ひぅ、ゃあぁあッ、あっ、イく! イっちゃ、ぅあ、ッ〜〜〜!!」
「イっていいぞ、爆豪」
「あっ、あっ、せ、せんせいは? せんせ、もっ、イく? きもちくて、イくっ?」
「っ、あぁ、俺も、すぐイくから、安心しろ」
 そう言って、相澤の指先が先っぽのほうを、ぐ、と強く刺激する。
「あ、く……ッ、あッ、っ―――――!!!」
 それで、もうだめだった。
 びゅるり、と白濁が勢いよく吹きだして、相澤の手を汚した。はッ、と爆豪は一瞬息を止める。全身が、ぎゅうぅ、と強張って、意図せずに中の相澤のものを絞めつけてしまった。
「ッは、……く、ぅ」
 すると相澤もまた耐えるようにして息を止めていた。ずるり、と奥まで埋め込まれていた熱が一気に引きだされ、すぐさま温かな液体が腹の上に、ぱたたっ、と降り注ぐ。安心しろと言った言葉の通り、ちゃんと相澤も射精に至ったのだと、のぼせた頭でもわかった。

「はッ、はッ、ぅ、く、……はぁッ」
「はっ……、はぁ」
 すべてを吐きだした後も、爆豪はしばらくのあいだ相澤と二人して犬のように荒く呼吸をくり返した。あんなに強張っていた全身から一気に力が抜けて、相澤の首元に回していた腕はずるりと落ちて無造作にベッドの上に落ちる。
「は、ぁ……、ぁ」
 頭の中がぼんやりとしていた。先ほどの射精以上の倦怠感に瞼が重く、全身がだるい。けれど、その倦怠感にはこれ以上ないほどの満足感と心地よさが含まれていた。満たされた、と思う。なにが満たされたのか、うまく言葉にはできないが、いっぱいに満たされたと爆豪は思ったのだ。
「疲れただろ、もう休んでいいぞ」
 ゆるゆるとし始めた意識の中、相澤が囁く。
 泣きすぎて真っ赤になってしまった目尻に甘いキスを落として、眠りに誘うようにして頬をするりと撫でる。
「ぁ、……ん、けど……」
「いーから、ゆっくり休め。ほら」
「ん、ん……、ん、ぅ」
 眠い。しかし、このまま眠ってしまうのはもったいない気がして、爆豪はぱちぱちと瞬きをくり返し抵抗を試みたが、するすると頬を撫でる手の感触がどうにも心地よくて仕方がなかった。
「せ、んせ……ぃ」
「なんだ」
「そ、ばに……、いろよ」
「わかってる」
「ん……、ぅ」
 適当な返事してんじゃねぇぞ、と言いたかったが、流石にもう電池切れだ。
 相澤の気配に意識をやりながら、爆豪は満足感とともにゆるゆると眠りについた。
次→