全速力でかけていく切島たちを周りの人たちはどうしたのかと好奇の目で見てくる。お、事件か、と浮足立つもの、やだ怖い、と怯えるもの、頑張れよヒーロー、とエールを送ってくれるもの。さまざまな人たちを後目に、切島は足を緩めぬままにひたすら走る。
 その途中、さらに通信が入ってきた。どうやら、出現したヴィランは液状化する個性の持ち主のようで、現場は相当の苦戦を強いられているとのこと。拘束系の個性を持つヒーローは優先して現場に向かってほしいと要請がくり返される。
「液状化か、こりゃ俺たちじゃ無駄足かな」
 同僚がごちる。
 同僚の個性はパワー増量系のバリバリ戦闘向きのタイプであり、そして切島の硬化もまた前線でぶつかり合って力を発揮するタイプだ。力で押し込めての拘束はできるが、液状化の個性を持つヴィラン相手にはあまり有効ではないだろう。
 だからと言って現場に向かわないなどという選択肢をとるはずもなく、二人は走り続ける。
 ふと気がつくと、自分たち以外にも走るヒーローの姿があった。ひらりとなびくマントをまとったコスチュームの男はこちらに気がつくと近づき並走してきた。
「君たちも――商店街に?」
「はい」
「そうです」
「そうか。うちの情報によるとヴィランは人質を取っているらしい」
「はっ、人質ッ?」
「あぁ、しかも人質になっているのは子どものようだ」
「ッ、ゲス野郎が」
 ぐぐっ、と切島は眉間に深く皺を寄せた。人質、それも子ども。最低な野郎だ。まだ姿も見ぬヴィラン相手に急速に嫌悪が募っていく。

 地面を蹴る足により一層の力がこもる。急がなければ、と意識が逸る中、今度は、どォぉおおん、と大きな爆音が商店街のほうから聞こえてきた。はっ、と視線を上げると空に向かって大きな黒煙がのぼっている。
「なんだ、煙? ヴィランの仕業か」
「ただの火事ではないな。あの音、爆発か?」
「じゃあどこかのヒーローが? ヴィランは液状化個性のはずだから……」
 いや、でも、と切島は首を横に振った。
「人質を取られた状態で巻き込む可能性の高い炎熱系の個性を使うとは考えにくくねぇか?」
「たしかに。じゃあヴィランの武器かなにかか?」
「武器を所持していた情報はないが……」
 一体現場はどうなっているのか。
 近づいていくほどに焦げ臭いにおいが鼻をつき、否応なしに緊張は高まる。どぉん、どぉん、とさらに爆発音が続いて、頬を撫でる風に熱気すら感じられるようになった。
 現場は近い。あと少しだ。そう思ったところで、切島はふいに気がついた。それはとある一つの可能性。その可能性に気がついた瞬間、雷に打たれたかのような衝撃が全身を走った。  あの爆発音がヒーローのものでも、ヴィランのものでもないのなら、もしかしてあれは……。
(人質にされた、子ども……、爆発……)
 じわり、と背中に嫌な汗が浮かんだ。
 もしも……、もしも人質にされたという子どもが爆豪であったなら。爆豪の個性は爆破だ。ヴィランに捕まった爆豪が抵抗のために個性を使っているのだとしたら……。嫌な予想だった。最低最悪すぎる予想。けれど、そう考えると辻褄が合うのではないか? あぁ、でも、そんな、まさか。
 どォぉん、とさらに爆音が聞こえてくる。断続的に、何回も何回も。その音が耳に届くたびにどんどんと予想が事実へと様変わりしていくようなそんな気がした。
(爆豪、爆豪っ、まさか本当に来てくれたのか? あんなことがあったのに、それでも、来てくれたのかッ?)
 このあたりに爆豪がやってくることなど、それ以外にはない。
 あんなに傷つけてしまったのに、それでも爆豪は来てくれたのだ。いつものように来てくれた。それはもしかしたら文句を言うためかもしれないし、終わりを告げるための訪問かもしれない。それでも、爆豪は来てくれた。このままお互いの関係が自然消滅してしまうのを待つのではなく、なんらかのアクションを起こしてくれるために、来てくれた。
(くそっ、それなのに俺は……、俺はッ!!)
 会うのが怖いなどと、仕事を言い訳に逃げ出した。
 爆豪よりも10歳も年上であるのに、向き合うのが怖くて逃げ出した。なんて馬鹿だったんだろう。嫌というほどにそう思った。
 
 
 
◇  ◇  ◇
 
 
 
 商店街に着くとそこには人だかりができていた。その向こうに濛々と煙の立ち込める火の海が見える。たくさんのヒーローの姿も見えた。どのヒーローも遠巻きに炎を見たり、周囲の人間に喚起の声を上げているばかりで、肝心のヴィランと交戦している様子は見られない。
「状況は?」
「ヴィランが子どもを人質にとって膠着状態だ。子どもが炎系の個性で抵抗していることもあって迂闊に近づけない。近づけてもヴィランには物理攻撃がまるで効かなくてお手上げだ」
「くそっ、やっぱり物理はだめか」
 すでに現場にいたヒーローからの情報に同僚は顔をしかめる。その隣で、切島は話の半分ほどは頭に入っていなかった。ヴィランの情報は大事だ。けれど、それよりも、人質はどうなっている。人質の子どもは……。
 切島は騒ぎの中央へと目を向けた。多くの野次馬とヒーローが向ける視線の先には、緑色の巨体をドロドロと蠢かせるヴィランがいる。その中央には黒い学ランの少年。その髪は遠めからでもよく分かる白金色をしていた。珍しい色だ。でも、切島にはよく馴染んだ色だ。
「爆豪ッ!!」
 嫌な予想は当たってしまった。
 ヘドロのようなヴィランに捕まっているのは、間違いなく爆豪であった。ヘドロに全身をまとわりつかれ、手足もろくに動かせない様子で苦しそうにもがいている。その手のひらから、時折、爆破がくり出されるが、その拘束が緩む様子はない。
「ッ……!」
 とっさに切島は走り出す。捕らわれた爆豪を取り返そうと手を伸ばす。しかし、すぐに同僚に腕を掴まれてしまい、足は数歩もしないうちに止まってしまった。
「おい馬鹿っ、聞いてなかったのかよ! あいつには物理攻撃が効かねぇ! 無暗に飛び出してどうすんだよ!」
「けどッ、爆豪が……!」
「は? ばくご? まさか知り合いか? くそっ、だったらなおさら落ち着け!」
「じゃあ、どうするってんだ!? 物理攻撃が効かねぇから、だから安全なところからただ突っ立って眺めていろって!?」
 怒鳴る切島に、現場にいた別のヒーローが答える。
「仕方がないだろう! 救援要請は続けている、誰か有利な個性を持ったヒーローを待つしかないっ!」
「はッ、なんだよそれっ……!!」
 随分と簡単に言ってくれる。
 それじゃあ、その間爆豪はどうするというのか。あんなに苦しそうなのに、我慢して耐えてくれと? 今ここに俺は立っているのに、いつ来るかわからぬヒーローを待てというのか。
 彼らの言っている意味は分かる。手立てのない状態で突っ込んでも、返り討ちにあうだけだ。ましてや自分はまだまだ新米の域から片足を出した程度のヒーローだ。わかっている。だが、到底納得などできるはずがなかった。

「けっ、またヒーローが増えやがったか、鬱陶しい」
 爆豪を捕らえているヘドロヴィランが笑う。多くのヒーローに囲まれながらも、余裕の態度でにたりと。下卑た眼差しで爆豪を見下ろし、弄ぶようにその頬を触手のようなヘドロが撫でた。
「まぁ、いい。このガキの身体さえもらっちまえば、どうとでもなる」
「ぐ、ぅ……、く、そ、がァ……ッ」
「ははっ、無駄だっつーの、いい加減大人しくしろ」
「がッ、ぁ、ぐ……!」
 爆豪が身をよじるとそれすらも許さないとばかりにヘドロがその身体にきつくまとわりつく。爆豪の表情が歪んで、うめき声が小さく漏れる。ヘドロに覆われた手のひらから爆破がくり出されるが、ヘドロヴィランは平然とした様子のまま笑っていた。
「良い声だなァ、へへ、この声が聞けなくなっちまうのはちっと残念だが」
 そう言いながらヘドロが爆豪の口元を覆う。なんとか逃れようと爆豪は顔をそらすが、ヘドロが剥がれることはない。のけぞった白い喉元が大きく震える。ぐ、ぐ、と不自然に、何度も。
「おら、さっさとその身体渡しな。悪いようにはしねぇさ、たぶんなァ!」
「ぉ、ぐ、……ぅ」
 爆豪の声が詰まっていた。限界にまで見開かれた目が苦しみに濡れていく。焦点がぐらぐらと揺れて、赤いその目は空を仰ぎ地を彷徨い、そして最後にこちらを見た。目が合う。その瞬間、ついに溢れた涙が丸い頬を濡らす。
 ――もう、だめだった。

「ッ爆豪!!!」
「おいっ、ばか!」
 同僚の手を渾身の力で振り払い、なりふり構わずに切島は飛び出した。
 頬をちりちりと焦がす炎も、同僚の制止も関係ない。物理が効かないからなんだ。新米だからなんだ。愛しい人が目の前で苦しんでいるというのに、今飛び出さないでなにがヒーローだ。そんなのヒーロー以前に男ですらない!
「爆豪を離しやがれぇえええ!!!」
 全身を硬化させ、突っ込む。
「はっ、馬鹿が! んな個性で俺様にかなうかよ!!」
 そんな切島にひるむことなくヘドロヴィランは巨大な腕を薙ぎ払うようにして横にふるった。とっさに顔の前で固めた腕をクロスさせ防御する。
「ぐ……ッ」
 ヘドロヴィランの攻撃はシンプルに力強かった。押し負けた身体が吹っ飛んで背中から商店のシャッターに激突する。がしゃん、と耳障りな音が響き、鈍痛が背中に広がる。だが、その程度で切島はあきらめはしなかった。
 素早く身を起こし、地面を蹴るとふたたびヘドロヴィランに向かって突っ込んだ。
「はっ、無駄だ!」
「――ッせぇんだよ!!」
 吠えるヴィランにさらに激しく吠え返す。再度襲ってきたヘドロを切島は今度は吹き飛ぶことなくその攻撃を両腕で受け止めた。ずず、と踏ん張った足が衝撃にいくらか後ずさってしまったが、それでも倒れなかった。
 ヘドロを受け止めたまま、一歩踏み出す。重たい。でも、それがなんだ。一歩、また一歩と距離を縮める。距離はもとより長くない。いける。引きさえしなければ、爆豪はすぐそこにいる。
「っ、うぜぇんだよ、ヒーロー風情がァああ!!」
 一歩も引かぬ切島に、ヘドロヴィランの声にはじめて苛立ちが混じった。
 腕を振りかぶるためか、受け止めていたヘドロが引いていく。切島は前のめりに転びかけて、ぐ、と踏ん張った。むしろその勢いと隙を逃さずに、一気に距離を詰める。手が届く、その範囲まで。
 右腕を集中的に硬化させる。なによりも硬く、なによりも鋭く。
 飛び出したのは衝動だった。その瞬間はなにも考えていなかった。けれど、今この瞬間の切島は決して無策であるわけではなかった。
 ヘドロは柔軟にその硬度を変え、攻守ともに厄介極まりない。ヴィランもそんな自身の個性によほど自信があるのだろう。淀んだ眼はにたりと忌々しく笑い続ける。切島はその目をにらみつけて思った。どろどろの全身に物理攻撃が無力でも、そこならばあるいは……、と。
 ある種の賭けだった。予想が違っていたら、手痛い反撃を喰らうことは間違いない。それでも、飛び出した切島の足が止まることはなかった。
「死ねぇえええええ!!」
「う、ッッらぁあああああああ!!」
 喉が自分の声でびりびりと痛むほどに叫んだ。
 目前に迫るヘドロの腕を今度は受け止めずに、寸前で交わす。そのまま懐に潜りこみ、渾身の勢いで最高にまで硬化させた右腕を、ヘドロヴィランの左目に向かって思いきり突き刺してやった。ぶ、ちゅり、となんとも言えない感覚が右手を覆う。
「ぐッ、ぎゃぁああああぁぁあああ!!」
 すさまじい悲鳴があたりに響く。
 切島はそんな声など気にも留めず、突き刺した右腕を奥の奥までさらに突き刺し、そして無慈悲に一気に引き抜いた。血ともヘドロともわからぬ液体がぱたたっ、と地面に跳ねる。だが、切島にとってすれば、ヴィランの悲鳴も血もどうでもいいものであった。このままヘドロヴィランが失明しようが、それすらも知ったこっちゃない。爆豪をこのゲス野郎から解放するためならば。
 悲鳴が徐々に小さくなるにつれて、爆豪を捕らえていたヘドロの拘束が緩む。その隙に切島は爆豪の腕を掴み、残ったヘドロを振り払った。そうして、ようやくの思いで爆豪をその胸元へと引き寄せた。
「爆豪っ!」
 爆豪を抱えたまま、急いでヘドロヴィランと距離をとる。戦闘態勢はそのままに爆豪をかばう形で鋭くヘドロヴィランをにらみつけた。どんな攻撃がこようとこれ以上爆豪は傷つけさせない。絶対に、なにがあっても。
 しかし、切島の鋼の決意をよそにヘドロヴィランは力なく地面に倒れ伏した。一瞬の静寂。ヘドロヴィランは動かないまま、わぁっ、とどこからか歓声が上がる。
「完全にごり押ししやがった……」
「なんだあの怖いもの知らず、どこのヒーローだ?」
 どこかの誰かそう言って、さらに誰かが、確保だ確保! 今のうちに拘束しろ! と叫び、切島の横を何人かのヒーローが走り抜けていった。さっきまで棒立ちだったくせに、とは、思わない。今の切島には、胸元に抱えたぬくもりだけがすべてだった。

 げほっ、げほっ、と腕の中で爆豪が激しく咳をくり返す。その背中を切島は、そっと撫でた。ひゅー、ひゅー、とその呼吸音はとても苦しそうで、切島は先ほどまでの鬼の形相はどこへやら、迷子になった犬のように眉を八の字にして爆豪の顔を覗き込む。
「大丈夫か爆豪? 怪我はねぇか? 痛いとこは? 変なとことかッ」
「げほっ、けほッ……、はっ、へーき、だ……、こん、くらい」
「っ本当か? 本当にいてぇところねぇか? ごめん爆豪、もっと俺が早く来てたら」
 言いながら切島の身体はいまさらのように恐怖に震えた。一歩間違えれば、爆豪を失っていたかもしれない。あのヘドロヴィランに殺されていたかもしれない。そのあまりの恐ろしさに、ぎゅ、と強くその身体を抱きしめた。
「よかった……、無事で、よかった……。よく頑張ったな、さすが爆豪だ」
「はっ……、こんくらい、なんともねぇ、よ……」
 こんな時でも爆豪の言葉は素っ気ない。そのいつもの爆豪の反応がやけに嬉しかった。
 言いたいことがたくさんあった。謝りたいことがたくさんあった。それなのに、なにひとつ言葉がうまく出てこず、ヒーローとしてかけるべき言葉やするべき態度があるだろうに、それすらもうまくできない。
 油断すると涙腺すら緩んでしまいそうで切島は、ぐ、と歯を噛みしめた。あぁもう情けない。どうして自分は爆豪の前ではこうもかっこ悪くなってしまうのか。でも、そんなのもうどうでもいい。かっこ悪いと笑われても、情けないと呆れられても、爆豪が無事ならば、それだけで、なんでもいい。

「おいこら、烈怒頼雄斗」
 ぐすり、と鼻を鳴らしたところでかけられた声に顔を上げれば、むすっとした表情の同僚ともう一人、男が立っていた。見覚えのあるその男は、過去の事件事故で何度か顔を合わせたことのある警察官だった。男は、いやぁお疲れさまです、と軽く切島に声をかけながら、腕の中の爆豪を見て尋ねる。
「そちらの子は大丈夫ですか」
「あ、あぁ、はい。とりあえず大きな怪我はねぇみたいです」
「それはよかった。けど、どうします? 念のためすぐに病院に行きますか?」
 それでしたらすぐに手配をしますが、と言われて、切島はそうだなと頷いた。爆豪は平気だと言っていたが、もしかしたら強がりであるかもしれない。切島としてはしっかりと病院で見てもらえれば安心できる。
 だが、切島が男に答えるよりも早く、腕の中の爆豪は首を振った。
「爆豪?」
「平気だ、どこも怪我してない。だから病院なんざいらねぇ」
「そうは言ってもなぁ」
「それよか、早く帰りてぇ……」
 視線がうるさい。そう言って、爆豪はなにかに耐えるように目を細めた。
 あぁ、と切島はすぐに察した。辺りにはまだ大勢の野次馬がいる。ヴィランは捕まったが、人質であった爆豪とそれを救出した切島には好奇の目がいくつも向けられ続けていた。ヒーローとして働いている切島にはある程度慣れた視線ではあるのだが、ヒーローを目指してはいてもまだまだ中学生でしかない爆豪には辛いものがあるだろう。
 切島は、本当に怪我はないんだな? ともう一度確認し、こくりと頷かれたちいさな頭に、それならばと警察官の男に向かって言った。
「すんません、今日のところはこいつ帰してもいいですかね? 早く休ませてやりてぇんで事情聴取とか諸々はもうちょい落ち着いてからってことで……」
 さらに知り合いであることも告げれば、警察官はそうですねぇとゆっくりと答える。
「大分お疲れのようですからね。ヴィランは無事確保されましたし、怪我がないようでしたらそのほうがいいかもしれません」
「あざっす。じゃあ、もしなにかあるようだったら俺の事務所のほうに連絡を」
「はい、わかりました。あぁ、それとその子の名前もいいですか?」
「うす」
 顔なじみだったおかげもあって話はあっさりと進んだ。そのまま最低限の情報を手短にかわしてから、次に切島は同僚のほうへと顔を向けた。
「わりぃ、あと頼んでいいか? 俺、こいつについていてやりたいからさ」
「……しゃーない、言いたいことはあっけど、また今度にしといてやる」
「ほんと、わりぃ」
「いーよ。無事でよかったな、その子」
「……あぁ、さんきゅー」
 同僚に報告、後始末を任せ、切島はあらためて爆豪の顔を覗き込んだ。爆豪の呼吸はもうだいぶ落ち着いている。だが、顔色が悪い。早く落ち着ける場所に運んでやらなければ。
 切島は爆豪にそっと声をかけた。
「家帰ろうな爆豪。親父さんたちいる?」
 ふるふると首は横に振られる。
「そうか……、連絡取れるか?」
「…………おまえんち」
「え?」
「おまえんち、いく」
 ちいさな声で、しかしはっきりと爆豪は言った。
 切島は考え込みかけて、すぐに答えた。
「ん、わかった」
 切島は爆豪を抱えたまま立ち上がった。人目から隠すように深く胸元に引き寄せて、足早にその場を後にする。途中で爆豪は、自分で歩く、と身をよじったが、切島はその身体を抱えたまま、絶対に離してやらなかった。
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