ちゅぅ、と小鳥が餌をついばむように柔らかな唇を食む。感触を楽しむように、むにむにと何度も。そうすれば、爆豪は、ん、む、と喉の奥でこぼすような声を上げた。キスに慣れていない子どもの反応が愛おしい。 「爆豪」 唇を離し、至近距離で目と目を合わせた。名を呼ぶと、焦点のあっていなかった目が少しずつあっていき、切島を捉える。ゆっくりと一度、白い瞼が瞬きをして、そして次に、ぶわっ、と爆豪の目じりが朱色に染まった。青白かった顔に一気に熱がよみがえる。それは、とても美しい色合いをしていた。 「なぁ、爆豪。爆豪はキスしたことある?」 「…………な、い」 爆豪だったらもしかしたらキスの一つくらいは経験があるかもしれないと思ったが、首を振る爆豪の反応はキスの反応と同じく、たしかに初めてにふさわしく初心なものだった。 「そっか、……じゃあ、俺が初めてか」 「わるい、かよ」 「いや、ぜんぜん」 むしろ、凄くいい。 初めてであるとか、そうじゃないだとか、今まで切島は恋人にそういったものを求めたことはなかった。男の中には自分が初めての男でなければ嫌だなんて言う人もいるが、切島はそのあたりに対してこれといったこだわりはなかった。現在進行形で二股をかけられているならともかく、過去に恋人がいたことある程度では気になどしない。昔はどうでも、今自分だけを愛してくれているのなら、それでいいと、そう思っていた。 けれど、爆豪がまだキスをしたことないのだと知って、切島の胸は歓喜であふれた。爆豪の初めてを、ほかでもない自分が奪った。その事実にやけに興奮を覚えた。真っ白な新雪を踏み荒らすような背徳感と優越感。じわじわと内側から熱が宿る。もっと欲しい。爆豪が、爆豪のすべてがもっと欲しい。そう思った。 「っん、ぅ」 今度は尋ねもせずに唇を重ねた。柔らかな感触。唇で触れるだけでは物足りなくなって、舌を伸ばしてその柔らかい唇をなぞる。そうすれば、腕の中でびくりと爆豪の身体が跳ねた。その肩をしっかりと抱きながら、そのままぬるりと舌を唇の合間に滑り込ませる。 「んっ! んぅ」 びくびくっ、とまたしても爆豪の身体が跳ねた。一度は強張りが解けた身体がまたしても硬くなる。驚きか、緊張か。なんにしても、気を休ませるように切島はすっと爆豪の背中に手を滑らせた。ぽこり、と浮かんだ背骨の形を一つ一つ数えるようにゆっくり、丁寧に撫でる。爆豪の肌は夢で触れた肌よりも、よほど滑らかで触り心地のいい感触をしていた。 「ん、ふ、ぅん……っ」 怯えるように奥へ逃げようとする舌を舌で捕まえて絡ませる。ざぁざぁといまだ頭上より降り注がれるシャワーの水音に交じって、ちゅ、くちゅ、と粘度の含んだ水音と鼻から抜けるようなちいさな声が鼓膜をくすぐった。 そのままぬるついた舌の感触とちいさな声を堪能していると、とんとん、胸元を弱々しくたたかれた。名残惜しかったが、素直に顔を離せば爆豪は目尻だけでなく丸い頬まで赤く染めながら、はふはふと必死に呼吸をくり返していた。 「わりぃ、大丈夫か?」 「っ、は……、へ、へーき、だ」 答える声は震えていた。 あぁ、かわいいな、と思う。全然平気じゃないくせに、強がって平気だと答える爆豪。さっきはそんな爆豪の強がりにやきもきさせられたが、今の爆豪の強がりはすごくかわいくて仕方がない。現金だなぁ、と自分で自分にあきれるが、だってかわいいのだ。 キスだけでこんなにもいっぱいいっぱいになってしまうなんて、これ以上のことをしたら、いったい爆豪はどんな反応をするのだろう。一度火のついた欲望は止まることを知らない。 切島は爆豪の背中に腕を回したまま、もう一方の手で爆豪の腹に触れた。自分の硬いばかりの腹とは違った、柔らかな腹だ。うっすらと筋肉の形を感じはするが、中学に入ってようやく筋トレを始めたと言っていた爆豪の腹はまだまだ柔らかさのほうばかり目立っていた。 その腹を撫でながら、怖がらせないよう少しずつ、触れさせた手を下へ下へと滑らせる。そしてついに、そこへと触れる。 「あ……っ」 唇を重ねた時以上に爆豪の身体が跳ねた。 弱々しい声とともに、手のひらが手首に触れる。切島はいったん手を止めて、ゆるゆると揺れる赤い瞳をまっすぐに見つめた。 「嫌……?」 「……いや、じゃ、ない」 きりしまなら、とちいさく答えられた声に、ほっとする。 じゃあ触るからな、と一声かけてから、止めていた手を動かし、くにくにと優しく扱いてやると徐々にそれは明確な熱を帯び始める。 「っはぁ、あ……、んっ」 爆豪の声にも明確に色がつく。いつもよりちょっと高い声。 「気持ちいい?」 「ん、ぁ……、し、らねぇ……、ぁく」 ふるふるとそっけなく首を横に振る。嫌じゃないと言ったばかりで、かわいらしい抵抗だ。切島は思わず、ふっ、と笑った。 「爆豪はもう精通してる?」 「ば、かにっ、してんのか……?」 「してねぇよ。けど、そっか。なら大丈夫だよな?」 「なにが……、んくぅっ!」 ちょっと残念だと思ったのは秘密だ。それすらも自分の手で教えられたら、と思ったが、まぁ、いい。今からそれ以上のことをこの身体に教え込もうとしているのだ。 きゅう、と扱く手の力を強めれば、爆豪は喉の奥で大きく鳴いた。いやいやと首を振り続けながら、先ほどよりも強く切島の手首をつかむ。 「や、ぁ……! うぁ、やめ……ッ」 「嫌じゃないだろ? 俺ならいいって言ってたもんな」 「あ、ぁっ、や、くそっ……!」 うぅぅ、と爆豪が呻く。 切島は気にせずに手を動かし続けた。自分の手でどんどんと熱を高めていくそれが愛しくて仕方ない。まだ幼い身体つきとは言え自分と同じ男の身体なのに、それがどうしたと言わんばかりに興奮が募る。 「くそっ、は、はなせ!」 「うわ……っ!?」 夢中で熱を育て続けていると、ふいに、ぼんっ、と顔のすぐ横でなにかが爆ぜた。 反射的に身をすくませ動きを止めるとその隙に、ぴゃっ、と爆豪は切島のスウェットに飛びついてきた。なんだなんだと思えば、そのままぐいぐいと力の入りきってない手で乱暴に引っ張ってくる。 「ど、どした急に!?」 「俺も、さわる!」 「え……?」 「てめぇのも出せ!」 「ちょ、おいっ。わ、わかった、脱ぐ! 脱ぐから、ほらちょっと待て!」 「はよしろ!」 ぷすぷすと怒る爆豪はどうやら一方的に翻弄されたのが気に食わなかったようだ。 まったくしょうがない。そう思いつつも切島はついでに濡れて張り付いてくる上も脱ぐと下着と一緒にスウェットを脱ぎ捨てた。 「……ッ」 その途端、爆豪はちいさく息をのんだ。視線は爆豪と同じく全裸になった切島の股間へと向けられている。まだ一度も触っていないはずのそこは、しかし、爆豪のかわいらしい姿にすっかりと硬くなっていた。 自分から脱げと言ったくせに、爆豪はあらわになったその切島のものにすっかり固まっている様子だった。きっと自分のもの以外に勃起した性器を見たことがないのだろう。そして自分と切島とで色や形がまるで違うことに驚いたに違いない。 「触ってくれんじゃねぇの?」 どこまでもかわいい反応を見せる爆豪に、切島は思わず笑いながら意地悪く尋ねた。すると、爆豪はわかりやすく、む、と口を曲げた。 「うっさい! ……いま、さわる」 口は相変わらず悪いが、伸ばしてくる手つきは恐る恐るとしていた。 まずは指先が亀頭に触れ、もどかしいぐらいにゆっくりとしたスピードで手のひら全体が竿の部分を包み込む。切島は爆豪にばれないよう、ぐ、と息をつめた。 まだ、ただ触れただけだ。恐々と軽く。感触としては大したことはない。そのはずであるのに、しかし、爆豪の手が性器に触れた瞬間、雷に打たれたがごとく全身になんとも言えない衝撃が走った。 (なんか、すっげぇ、やべぇ……) 爆豪の手が、自分の勃起した性器に触れている。それは切島が想像していた以上に切島のあらぬところを強く刺激した。ちゅこちゅこと握った手を上下させはじめた爆豪の手つきは相変わらず恐々としたまま拙く、射精に至るには今一歩物足りない刺激であるのに、それを耐えるのにひどく気合を必要とさせられた。 このままじゃまずい。本能的にそう思った切島は立ち上がったままの爆豪のものに再度手を伸ばした。 「うひゃぅ!」 「っぅぐ」 切島のものに意識を奪われていた爆豪はまさか触られるとは思っていなかったのだろう。驚いた拍子に性器を握っていた爆豪の手に、ぎゅ、と力が込められて、その刺激に切島は息をつめた。危ない危ない。うっかり強く走った快感を誤魔化すように、切島はにゅちゅにゅちゅと大きく手を上下させた。 「あっ、あっ、いま、俺がっ、ん、さわってんだろ……!」 「えぇー、でも俺も爆豪のさわりてぇもん」 「し、るか!」 「んー、じゃあ一緒に、な?」 「え、あ……、ひっ、ぁ!」 しゃふー! と威嚇する爆豪に、にっ、と笑い返して、切島は爆豪の手ごと自分のものと爆豪のもの握りこみ、一緒くたに激しく上下させた。ぐちゅぐちゅとどちらのものともわからぬ先走りがいやらしく音を立てる。 限界はお互いにあっという間だった。爆豪の熱が切島を高め、切島の熱が爆豪を高める。いったいどこまで熱くなってしまうんだろうか。そんな恐怖すら覚えてしまいそうなほどに、ただひたすら気持ちがいい。 「きり、しまっ、あっ、あっ」 「はっ、もう、イきそ?」 「ふ、うあ、あっ」 「ん、いいぞ」 言って、指で引っ掛けるように雁首を握り、ぎゅう、と力を込める。そうすれば、促されるまま爆豪は、あっ、とひときわ高く声を零して、ついに切島の手の中で果てた。ぴゅくっ、と白濁の精液が湯に混じって温く降り注ぐ。そのわずかな感覚に切島も思い切り熱を解き放った。 「はっ、はっ、あ……」 「はぁ……、爆豪。ばくごー」 吐き出した後も、余韻に二人一緒になって荒く呼吸をくり返す。 しばらくして爆豪の身体から力が抜けて倒れそうになるのを切島はすぐにぎゅぅと抱きしめた。そして、爆豪を抱えたまま立ち上がると混ざりあった白濁が湯に流されていくのをなんだかやけにもったいなく思いながら、その場を後にした。 まだ、この程度ではまだ足りない。 ◇ ◇ ◇ そっ、と静かに爆豪をベッドに寝かせる。目いっぱいかわいがってやった身体はすっかりとぐずぐずに蕩けきって、湯をずっと浴びていたからだけでは説明がつかないほどに美しい桜色に染まっていた。はぁ、と息をつくその音色は甘く、吐き出したばかりの熱は瞬く間に復活した。 馬鹿みたいに興奮しているのが自分でもありありとわかる。今までないほどに身体が熱い。童貞を捨てた時ですら、ここまで興奮しなかった気がする。それくらいに蕩けきった爆豪は官能的で愛らしかった。 「んぅ……っ」 どうにもたまらずに首筋に口づけを一つ落とせば、たったそれだけで爆豪は身体を震わせる。初めての感覚に戸惑ったように、それでいて、たまらなく感じ入っているように。なにも知らなかったはずの無垢な身体が自分の手によって艶めかしく身じろぎするさまにまた興奮は募った。 切島は一つだけでは治めることができず、ちゅ、ちゅ、といくつもキスの雨を降らした。そのたびに爆豪は敏感に身体を震わせるものだから、いくらしてもいくらしても飽きることなどはない。もっと触りたい。もっと感じさせたい。この手で。 冷めることのない欲望のまま切島は悪戯に手を爆豪の胸元へと滑らせ、桜色をした身体の中でも一等赤く色づいた乳首を、きゅう、と優しくつまんだ。 「ひ、ぁ……!? な、なんだよ……、む、胸なんかねぇぞ」 「知ってんよ。爆豪はちゃんとした男の子だよな〜」 そう言いながらも、切島はくにくにと胸元をいじくる手を止めない。そうしていると爆豪は、じゃあなんなんだよ、とか、くすぐったいだろ、と文句を言っていたが、次第に口数は減っていき、それに連動するようにはじめは柔らかかったそこが徐々に硬くなっていく。 「爆豪、きもちぃ?」 「き、もちくないっ」 「本当かぁ?」 「ほんとう、だっ!」 素直じゃないその反応が煽りになっていると気がつかないのか、爆豪はあくまでも否定する。かわいいなぁ、ともう何度目になるかもわからぬ想いを抱きながら、切島はだらしなく口元を緩めた。 「わらうな!」 「はは、わりぃわりぃ」 これ以上は怒らせてしまいそうだと切島は素直に胸元から手をどかした。 その代りにふたたび緩く立ち上がりはじめている熱を一撫でしてから、さらにその先へと指を進める。そこは誰の侵入も許したことのない処女らしく固くその奥を閉ざしていたが、縁はぷにぷにと少し柔らかい。マッサージをするようにやさしく押せば、ひくひくと反応を見せた。 「ひっ、こ、今度はッ、なん、だよ……」 「なんだと思う?」 「〜〜っ、しるか、くそっ」 悪態をつく爆豪はやっぱりなにも知らない。 子どもなんだ。知らなくたって、当たり前だ。こういうことを知るには、きっとまだ少し早い。ましてや、その相手が一回り近くも歳の離れた男の大人が相手だなんて。普通じゃない。けれど、切島はもう止まることなどできなかった。 「俺はな、爆豪。これから悪いことをする」 「? わるいこと? いやなことじゃなくて?」 「嫌かどうかは爆豪次第だけど、悪いことは悪いことだ」 ヒーローとして、大人として、男として、人として。 たぶん、きっととても悪いこと。でも、悪いこととわかっていても、爆豪が欲しいのだ。なにがなんでも、欲しい。たとえそれが人の道を外れる選択だとしても、この手に治めてしまいたい。 どうしようもないほどの欲求。そこに恐怖や葛藤はない。ほんの少し前までなら存在していたそれは、今はもうその片鱗も残ってはいなかった。爆豪を失ってしまうかもしれない恐怖を思い知らされた切島には、良くも悪くもそれ以上に怖いことなどもうなにもなかった。 頬に口づける。柔らかく丸い子どもの頬。爆豪は唇を尖らせながらも、目を細めて切島の口づけを享受する。切島は決して自分を傷つけはしないのだと信頼しきっている、そんな表情。はたして、これからやろうとしている行為はその信頼を裏切ることになるのだろうか。 「俺は、悪いことをするんだ」 もう一度、言い聞かせるようにくり返す。 爆豪が逃げ出すなら、きっとここが最後のチャンスだ。突き飛ばすなり爆破するなり、ここで抵抗を示してくれるのなら、もしかしたら残された良心が切島を思い踏みとどまらせてくれるかもしれない。 「いいか? 爆豪」 最後の問いかけだった。 するとなにを思ったのか、爆豪はそっと首を伸ばすとまるで切島をまねるようにして頬に口づけを返してきた。ちゅ、と軽い感触。それは鋭く切島の胸を突いた。照れたように爆豪は目をわずかに伏せる。口ではなにも答えない。けど、たぶん、それこそが答えだった。 十分に濡らした指で、ぐちゅり、と音を立てて中をかき混ぜる。肉は熱く、柔らかい。それでいて、離したくないとばかりにぎゅうぎゅうと指を強く締め付けてきて、またしても馬鹿みたいに興奮した。早く早くとせっつく心を、深く息を吐くことで制御する。 「ぁ、ぐ……、ぅ、あっ」 異物感に爆豪は苦しそうに顔をゆがめていた。強く目をつぶり、唇をかみしめる。 「爆豪、息止めるなよ。ちゃんと呼吸しろ、ほら」 「ん、はっ、ぁ……、はッ、あ!」 「そうだ、上手だな」 「んぅ」 ちゅ、ちゅ、と隙あらば優しくキスを落としながら、爆豪の後孔をゆっくりと解していく。はじめは縁を広げるように、指先だけを浅く挿入して、少しずつ奥へ奥へと進ませる。それを時間をかけながらも、二本、三本と確実に指を増やしながらくり返す。 それは根気と気合の必要する作業だった。身体は今すぐにでも爆豪を喰らいたいと叫んでいる。その中に早く入り込んで、めちゃくちゃにかき乱してしまいたい。その衝動を抑えるのはとても苦しいものがあった。 だが、切島以上に爆豪は苦しかったに違いない。それなのに爆豪は一度だって切島にやめろだなんて言わなかった。いつもの生意気な態度はどこへ行ったのか、ひどく従順なさまで、その美しい身体の奥深いところを切島に許す。親友人はもちろん、本人ですら触れたことなどないだろう、奥の奥。 「俺の指、わかる? おめぇの中に触れてる、俺の指」 「ん、ん」 こくこくと爆豪は目を瞑ったまま頷く。 「どんな感覚かわかるか? 痛い?」 「い、たくは、ない」 「じゃあ、苦しいか?」 「ぅ、ん……、で、でも」 「? でも、なんだ?」 はっ、はっ、と切島の言いつけ通りにちゃんと呼吸をくり返しながら、爆豪は途切れ途切れに答えた。 「時々、へんな、かんじ、す、ぅっ」 「変な感じ?」 「ぁっ、はらの、底が……、ん、むずむ、ず、するよう、な、っ」 そう言われて切島は、広げるように動かしていた指を探る動きへと変えながら、ぐるり、と慎重に柔らかな肉壁をかき混ぜた。指先に意識を集中させる。すると、ふとなにかが指の腹に触れたような、そんな気がした。ぷくり、と膨らんだなにか。 その個所に触れた瞬間、爆豪の身体が大きく跳ね上がった。 「あっ! ひッ、そこ、そこ、やめッ」 「ここ? ここ触ると気持ちわりぃか?」 「うぁっ、や、しら、ねっ……! でも、そこ、は、っいやだ!」 必死の様子で爆豪はかぶりを振る。相当、そこが嫌らしい。しかし、やだやだとくり返すわりに、その個所をいじればいじるほどに爆豪はうねうねと身体を善がらせ、苦しそうな表情をどこか悩ましげなものへと変化させていた。 爆豪の呼吸が早くなる。釣られて、切島の呼吸もどんどんと早くなっていた。なんとか落ち着こうと深呼吸をしようとするもうまくいかない。それどころか、息をすればするほどにやたらと甘いにおいが鼻をついて興奮が増した。 「くそっ、あー、もうだめだッ!」 限界だった。一度吐き出したはずであるのに、熱はすっかりと膨張しきって苦しいくらいだ。 ちゅぶり、と切島は指を引き抜いた。散々かき乱した爆豪の後孔は、指を引く抜いてもなお、ぽっかりとその穴を広げたまま、時折ひくりと縁が震える。まるで、早くその次を頂戴とねだっているように。 「っ、爆豪、ちょっと体勢変えような」 一声かけてから、あおむけに横たわる身体をうつぶせにひっくり返す。 「あ、ぅ、な、なに……、なんだよっ」 「大丈夫、こっちの恰好のほうが楽だから、なっ?」 いきなりのことに驚く爆豪の背をゆっくりと撫でてなだめてやる。 けど、本当はもうそんな余裕はどこにも残されてはいなかった。伸びをする猫のように腰だけを高くあげさせ、完勃ちした熱の先を後孔へ宛がう。あっ、と爆豪がちいさく息をのむ。 「挿れるぞ」 力、抜いててな、ともう一度背中を撫でてやってから、切島は身を進めた。 ゆっくり、ゆっくりと。焦ってはいけない。 強く言い聞かせながら、温かな肉壁へと熱を沈める。十分に解したつもりだが、なお狭いそこの抵抗は激しい。痛いほどの締め付けだ。けれど、切島の熱が冷めることはない。 「ぅ、あ、あ……」 「わりぃ、爆豪。ちょっとの、辛抱だから、な」 「んん、ぅ、ぁん」 無意識にだろう、爆豪は前へ前へ逃げようとするように腕でシーツを引っかく。切島はそれを許さずに爆豪の腰をつかむと、ずぷずぷとさらに身を進めた。時折、慰めるように背中にキスを落とし、ちぅ、と吸い付く。爆豪、と名を呼べば、んん、と喉奥で応えを返してくるのがかわいらしい。 「んぅ、はっ、はっ、ぁ」 「ッ、はぁ、全部、入ったぞ爆豪」 ようやくすべてを挿入しきって、切島は荒々しく息をついた。 口端からよだれが溢れそうになってごくりと飲み込む。まるで獣のようだと思う。いや、実際に獣と違いはないのだろう。本能のまま、欲望のまま、切島は爆豪を喰らう。 「動く、からな」 告げてから、ぐ、ぐ、と肉壁をかき分け、切島の形を擦り込むように何度も抜き差しをくり返す。そのたびに爆豪の中はきついながらも健気にその形を変えて、切島の大きな熱を深く受け入れる。 「ん、ぁ……、あ、く……っ、あんぅ」 何度もくり返しているうちに、息を詰めるばかりだった声に甘い吐息が混じり始める。その声を聞いて、切島は徐々にピストンのスピードを速めていった。爆豪の嬌声に混じって、ぱんっ、ぱんっ、と肌と肌がぶつかり合う音が狭い部屋に響く。 「んあ、ぁ、あぅっ!」 「あ、ついな、爆豪の中、すげぇあちィ」 「うる、さ……ぃあっ、あ!」 爆豪はふり返り、きっ、とこちらを睨もうとして、ぐぷ、と大きな音と共に挿入された感覚にシーツに顔を伏せた。快感を逃がすようにぐりぐりと額をこすりつける。 さらに、それだけでは足りなかったのか、爆豪はベッドにあった枕をつかむと、そのまま胸元に引き寄せてむぎゅうと枕に抱き着いた。いつも切島が使っている枕だ。まるでそれにしか縋るものがないというように爆豪は枕を強く抱きしめ続ける。 こんな体勢なのだから、爆豪の手が切島の縋りつくことはできない。仕方のないことだ。なのに、少し、嫉妬した。爆豪に抱きしめられている、ただの枕に。 「爆豪っ」 「っんあぁ……!!」 ずん、と爆豪のいいところを強く突いてやる。そうすれば甘い声により一層の甘さが混じった。大きく身を善がらせ、たまらないとばかりに小ぶりな尻をいやらしく揺らす。 「爆豪、なぁ、爆豪。わかる? 俺の感触、わかる? わかるよな? それともまだあの野郎の感触するか? まだ気持ちわりぃ?」 「あ、あっ、わ、かんねぇ、わかんねぇ! んん!」 「なんで? 俺のわかんねぇの?」 「〜〜っ、わかん、ねぇ!」 しつこく問いかければ、泣きそうな、それでいて相変わらず甘い声で爆豪はひんひんと鳴きながらわからないとくり返す。かと思えば、爆豪はさらに言った。 「あたま、頭ん中、ぐちゃぐちゃでっ、あっ、わかんねぇっ、わかんねぇ! きもち、良すぎて、あっ、頭ばかに、あっ、ばかになっちまう……!」 爆豪は枕に顔をうずめながら必死に頭を振る。 けれど、爆豪が必死に言葉を重ねれば重ねるほどに、それは的確に切島を刺激し熱くさせた。だって、そうだろう。こんなことを言われて興奮するなというほうが無理な話だった。 「ッ、いいぜ、馬鹿になっちまえよ爆豪」 「や、だァ……、ばか、やだっ、あっ、あ!」 「いいじゃん。俺と一緒にッ、馬鹿になっちまおう? なっ? なっ?」 「んあっ! あ、ぅ、〜〜〜〜っ!」 「爆豪、爆豪ばくごう! かわいいなァ、すげぇかわいい……!」 「うぅ、かわいく、ね、ぇ、ッひゃん!」 「あぁもう爆豪!!」 かわいい、かわいい、かわいい! たまらずに切島は爆豪の背中へと覆いかぶさった。ぎゅぎゅぅ、と強く抱きしめながら、激しく腰を振るう。一切の身動きを封じられた爆豪はただ声を上げることしかできない。 「あぁっ、あっ、あん、んぁ、はっ、ひぐ……!」 「爆豪、はっ、爆豪っ!」 それこそ馬鹿みたいに名前を呼ぶ。 爆豪がかわいい。爆豪が好きだ。爆豪が愛おしい。そのすべての想いを声と熱の二つに込めて、切島はひたすら腰を打ちつけた。 「ば、く、ごう……ッ」 「あ、ぐ……きり、しま、ひッ、ィあ、ッ〜〜〜〜!!」 目いっぱいに抱きしめた腕の中で身体が強張り爆豪はそのまま、びゅるりっ、と二度目の射精を迎えた。そうして今度は、びく、びく、と電流を流されているかのように爆豪の身体は跳ね、後孔がぎゅうぎゅうと強く切島を締め付ける。 「は、く……っ」 切島は爆豪の中に自分自身を深く刻みつけるようにして、最奥に熱を放った。 |
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