突然の相澤の行動に、うわっ、と爆豪は声を上げた。気にせずに寝室に向かってベッドに下せば、酒でいっぱいになった頭が揺れたからか、爆豪はぎゅっと目をつぶっていた。眉間にしわが寄っている。それをほぐしてやるようにあらわになった額にキスを一つ二つと落としてやると、うにゃうにゃと言葉にならないなにかを言いながら爆豪は表情を緩めた。
 そのままこめかみに、頬に、口端に触れるだけのキスを落とし続け、一方で腹を指先でそっと撫でる。爆豪がくすぐったそうに身をよじるがやめてやらない。優しく、丁寧に、それでいてしっかりと腹の凹凸を撫で続ける。爆豪はその感触にふるっと身をよじらせながら、ぽつりと訊ねてきた。
「すんの?」
「いやか?」
 逆に訊ね返すと爆豪はすぐに首を横に振った。
 先生がしたいならいやじゃない、とずいぶんと可愛らしいことを言ってくれながら目を細める。気が強く負けず嫌い。子ども扱いするだけですぐ怒る。そのくせ爆豪は相澤に対して変なところで従順な態度を見せて、なんとも的確に相澤を煽ってくる。
 まったくもってずるい子どもだ。
 そんなことを思いながら、爆豪の服を一枚一枚、果物の皮をむくようにして脱がせていく。あっという間に上半身を覆う服をすべて脱がせば、爆豪はちいさく肩を震わせた。あらわになった胸元を手のひらで撫でると、とく、とく、と心臓の鼓動が手のひらに伝わった。
 その鼓動に妙な満足感を感じながら、短くそろえた爪の先ですでに少し硬くなっている胸を軽く引っかけば、あ、と爆豪は鳴いた。酒に飲まれに飲まれているから、ちゃんと反応するか心配であったが杞憂のようだ。相澤がそういう意味を込めてさらに肌を撫でてやれば、その一つ一つに爆豪は喉を鳴らした。
「ん、せんせいも脱げよ」
 そろりそろりと徐々に手を下へと下げていくとその途中で、くいくいと服の裾を引っ張りながら爆豪が言う。拒む理由はなく、言われるがまま素直に服を脱げば爆豪は口端を緩めた。
 あらためてズボンを下着と脱がしてやる。一糸纏わぬ裸体は白く、薄暗い寝室でもまるで作り物のように美しくかった。とは言え、自分の色白さを気にしている爆豪にそれを言えばこんな雰囲気でもぎゃんぎゃんと吠えられることだろう。
 言葉数少ないまま、相澤はベッドサイドのボードからローションを取り出すと、たっぷりと手のひらに乗せ、温め馴染ませた。冷たかったローションに体温が移ったのを確認してから、とろり、と爆豪の後孔へとローションを垂らす。その拍子に白い脚が、ぴく、と揺れた。
「冷たいか?」
「へーき」
「んじゃ、触るぞ」
「……ん」
 こくり、と頷いて、爆豪はふと視線を逸らす。そっけない反応だが、嫌なわけじゃない。それがちゃんとわかっていたから、相澤はローションで濡れた後孔に指先で触れた。またしても白い脚がぴくりと揺れる。
 今度は気にせずにそのままゆっくりと指を進ませ、中へと埋めていった。く、と息を殺す声がして、顔を上げてみると爆豪が唇を噛みしめていた。やめろやめろと言っているのに、一向に治らない爆豪の癖だ。初めての時なんて、噛みしめすぎて出血したほど。
「噛むなよ」
「っ……、か、んでねぇッ」
 注意すれば爆豪は慌てて口を開いた。けれど、中に埋めた指をくの字に曲げて悪戯に揺らせばまたしばらくして唇を噛み始める。声が出てしまうのが嫌なのだろう。こちらとしてはむしろ出してほしいくらいなのだが、仕方がない。同じ男として多少気持ちは理解できる。とはいえ、いずれはこんな癖はなくさせてやる予定ではあるが。

 きゅうきゅうときつく指を締め付けてくる後孔をゆっくりと優しく解す。それこそ処女を相手にするように丁寧に、そしてしつこいほど念入りに。傷つけたくないから、慎重にならざるを得ない。
 それがじれったいのかしばらくもしないうちに、さっさとしろよ、と爆豪は言う。相澤はそんな言葉は聞かずに中を広げるように指を動かし続けた。ローションをつぎ足しながら、指の数を二本、三本と増やし、時折気まぐれにいいところすれすれに指先を掠めさせる。
「あッ、く、んん……っ」
 もどかしそうに爆豪が大きく鳴く。
 ひくひくといやらしく縁はうごめき、意識してか無意識か、いいところに指を当てようと身をよじらせる。ほんのりと赤く色づいた四肢がしゅるしゅるとシーツの上を滑るさまが官能的だ。後ろの刺激だけで十分に勃起した性器がふるふると揺れるのと合わせてひどく目に毒だった。
「あっ、も、それ、ぃ、やだ……!」
「そうか」
「っ、せんせい!」
 もうやめろよ、と震えを隠し切れぬ声で訴える。
 こっちの気も知らないで簡単に言ってくれるこいつは……。なんて思いながらも、確かにそろそろいいだろうかち指を引き抜けば、その拍子に甘く解れた後孔からはとろとろとローションがこぼれた。
 ねだられるがまま、爆豪の艶態でとっくに熱くなりきっていた自身を宛がう。そうすれば、蕩けきったそこは吸い付くようにして収縮した。だが、あくまでも宛がうだけで挿入はしない。いますぐにでも喰らいついてしまいたい衝動を、ぐ、と力ずくで抑え込んで、相澤は身をかがめ爆豪の口に唇を寄せキスをした。
 噛みしめ続けて少し熱くなっている唇を舐めてから、ぬるりと舌と舌を絡ませ、その状態のまま腰をゆする。触れ合わせた唇と局部その両方から、くちゅり、と音がなり、爆豪の身体が大きく震えた。
「あ、ぅ……、んあっ」
 重ね合わせた唇から、飲み込み切れぬ声が絶え間なくこぼれる。
 そんな自分の声に爆豪は嫌そうに眉をひそめた。
「な、ぁ……、もう、さ、っさと、挿れろ、って……!」
「…………」
「せんせいっ」
 要求を無視する相澤を爆豪が口付けから逃れながら呼ぶ。いつもと変わらぬ呼び方で。
 その呼びかけに相澤は答えなかった。反らされた唇の代わりに頬へと口づけを落としながら、緩く腰をゆすり続ける。そのたびに、くちゅ、くちゅ、と音はなり、爆豪は敏感に身体を跳ねさせ続けた。
 はっ、はっ、と爆豪の呼吸が早まっていく。その呼吸の合間も、先生先生とうわ言のように相澤を呼ぶ。早くして先生、早く早く、とこれでもかと煽ってくる。
 ぐぅ、と相澤は喉の奥で唸った。
「爆豪」
「ぅ、あっ、せんせいっ」
「俺を呼べ、爆豪」
「ん、ぅぁ……?」
「そうしたらお前の欲しいもん、ちゃんとくれてやる」
「っ俺、呼んでる! せ、んせいのこと、ちゃんと呼んでる……っ」
 さっきからずっと、と爆豪は主張する。
 相澤は首を横に振った。
「違うだろ爆豪。俺の名前は先生じゃない」
「ぃ、み、わかん、ねぇ、よ……っ、せんせい!」
「爆豪」
「〜〜っ、わっ、かんねぇ……! せんせいっ! あいざわせんせい!」
「……まったく」
 ぐずる子どものような声で爆豪は必死に相澤のことを呼ぶ。相澤先生と名を呼ぶ。だが、相変わらず「先生」は消えていないし、名前は名前でも苗字呼びだ。それは相澤がいま望んでいるものではない。だって、そうだろう。爆豪はベストジーニストのことを「維」と呼んでいたのだから。
 しかし、あまりにも必死に先生先生相澤先生とくり返す爆豪に、相澤は思いっきりほだされている自分を感じていた。まぁ、先生は付いていたし苗字ではあったが、爆豪は必死に相澤を呼んでいるのだから、ぎりぎり及第点と言ったところか。
 そもそも、いきなり名前で呼べと言ったところでいまの爆豪に相澤の意図が察せられるはずがない。これだけでは全く満足できてはないし、不満はありありである。だが、あまり虐めすぎてもあれだ。決して、意地悪がしたいわけではないのだから。

「仕方ないな」
 甘すぎる採点だ。これが惚れた弱みという奴だろうか。
 まさか、この自分がそのような言葉をこの身をもって実感するような日が来るとは思わなかった。今朝に続いて、そう思う。
「お前はつくづく俺の知らない俺を引き出すのがうまい」
「? な、に……、ぅあっ!」
 不思議そうに濡れた目を瞬かせる爆豪に最後まで言わせず、宛がうだけだった自身の熱をついに深く埋め込んだ。ぐ、ぷり、とひと際大きく音がなり、爆豪の足が宙を蹴る。
「ッひ、あッ、ぐぅ……っ」
 ぐ、と爆豪の声が引き攣った。反射的にか、手のひらが押しとどめるように相澤の肩を抑えてくる。弱い抵抗だ。相澤はさらに奥のほうへとゆっくり熱を沈めていった。くちゅ、じゅぷ、と音をならしながら、徐々に徐々に。
「ぅ、あ、っく、んんッ」
「ほら、あと少しだ」
「はっ、ぁ……、ん、あっ」
「痛いか?」
「〜〜っ」
 ふるふると首は横に振られる。
 相澤はそれに、そうか、と頷いた。そして、それならば、と納めきれていなかった残りの熱を一気に挿入させた。ひゅっ、と息を飲む音がなり、柔らかな肉壁がきゅうと強く締め付ける感覚に相澤は奥歯を噛みしめた。
 興奮にじわじわと額に汗が浮かぶのを感じる。見れば、爆豪に額にも汗が浮かんでいた。頬が酒のせいとはまた違った赤色に染まっている。艶めかしく、いやらしい色合いだ。
 思わず噛り付いてしまいたくなるようなその赤色に、相澤は挿入させた熱を馴染ませるようにゆるゆると小刻みに腰をゆすりながら爆豪の頬を手の甲で撫でてやった。すると爆豪はゆるい刺激に、あ、あ、と声を零しながらも、先と同じように自ら手に頬を寄せうっとりと目を細める。釣られて相澤も目をわずかに細めた。
「動くぞ」
「…………ん」
 はじめは、大きくゆっくりと。あくまでも馴染ませる延長線のように、ゆっくり。相澤にしてみれば酷くもどかしく、腹に無駄な力が籠る行為。だが、爆豪とのセックスにおいてこれは必要な工程だ。本来の意図とは脱した行為に無理はできない。
 無茶苦茶に抱きつぶしてしまいたい衝動を抑えて、慎重に少しずつトップへのスピードを上げていく。
「はっ、あ……、ふ、くっ、……あッ」
 その甲斐あってか、はじめはきつく締め付けるばかりだった肉壁は徐々に相澤の形を覚え、やがていい塩梅に絡みついてくるようになってきた。爆豪の声にも甘さが目立つようになってきて耳に心地よい。
「ぅ、あ、あッ、んあっ……! んん!」
 行き場のない熱をどうにかするようにして白い脚がシーツの上で暴れる。肩を抑えていた手はいつの間にか縋りつくようにして背中に回されており、相澤が、ぐ、と深く腰を沈めるたびに爆豪の爪が肌に食い込んできた。痛みはない。いや、正確にはその痛みすらも甘い刺激にしか感じず、肌がぞわりとした。
 そろそろいいだろうか。こんなに我慢したのだからいいだろうか。
 ぐじゅ、ぐぽっ、と下品なほどに粘ついた水音が部屋に響く。気がつけば、蕩けきった後孔に激しく自身の熱を穿ち込んでいた。水音に混じって、ぱんっ、ぱんっ、と肌と肌がぶつかり合う音が激しく鳴って、そのたびに爆豪はびくりびくりと腹を痙攣させた。
「んあっ! あっ、ぐ、ぅ……、あッ、あぁっ、ん!!」
 もう唇を噛みしめて声を我慢するような余裕などないのだろう。爆豪口からはひっきりなしに嬌声がこぼれる。艶めかしく眉間の寄せられた顔はすっかりと蕩けきり、ほんの少しの懸念も抱く隙もないほどに相澤から与えられる熱に感じきっていた。

 思えば、爆豪ははじめからそうだった。男同士、どちらも本来であれば抱く側の生き物であるが爆豪ははじめから相澤に抱かれることを望んでいた。先生の熱で俺ん中いっぱいにしてほしい。なにもわかんなくなるぐらい、先生でいっぱいにしてほしい。そんな風に言っていた。
 男に抱かれる。その行為に全くの抵抗がないわけではないことは、声が出そうになるたびに唇をかむ爆豪の反応を見てわかっていた。けれど、それでも爆豪は相澤に抱かれることを望んだ。自分の身を明け透けに晒すことを相澤にだけ許した。それがいったいどれだけの意味を持つのか。わからないはずがなかった。
 だから、爆豪を抱くたびに相澤は実感する。この子どもへの愛しさを。よくもまぁ、こいつが卒業するまで教師としての自分を保っていられたものだと、自分で自分に感心するほどたまらなくて仕方がなくなる。
 こんなにも熱く甘ったるい感情が自分の中にあったなんて。
 爆豪を愛するようになってからたくさんのことを自覚し、実感した。

「っ、爆豪」
「あっ、せんせ……ッ、せんせ!」
 呼べば、蕩けた意識で必死に返事をしようとする。
 可愛い、可愛い、俺の子。俺だけの子。誰にも渡したくないと心の底から思う。爆豪勝己は相澤消太のものだ。他の誰が爆豪のことを欲しようと愛そうと、それでもこの子どもはもう俺のものである。心も、身体も、そしてその名も全て。
「……かつき」
 一度そんなことを思ってしまえば、自分でも気がつかぬうちにするりと自然にその名を口にしていた。初めて呼んだ名前。しかし不思議とよく舌に馴染んでいるような、そんな感覚がした。勝己。その名を口にする、ただそれだけで愛しさが溢れて溢れて仕方がない。
「勝己」
 もう一度、その名を呼ぶ。耳元に口を寄せ、今度は意志をもってしっかりと。
「ひ、ぁ」
「ッ……、ぅ」
 すると、途端にきゅうと相澤を包む肉壁がきつく締まった。うっかり持っていかれそうになるほどのきつい締め付けに反射的に息をつめ、動きを止めた。先にイくのは年上として、そして抱いている身として下らないプライドのようなものが刺激されて嫌だった。
 いったい、急にどうしたのか。相澤は爆豪の耳元から離れ様子をうかがってみると爆豪は、むぎゅ、と強く目を瞑っていた。目だけじゃない。さっきまで半開きで嬌声を漏らしていた唇まで一文字に結ばれていた。そう、まるでなにかを我慢するように。
 限界を耐えているのだろうか、と思いかけて、しかし、相澤はすぐにもしかしてと察した。察してしまった。
「勝己」
「っ、ぅあ」
 試しに名を呼んでみると、案の定、爆豪の中がきゅうと締まった。
 これは間違いなく、声に反応している。名前を呼ぶ、相澤の声に。あぁ、あぁ、こいつは本当に恐ろしい子どもだ。内心で舌を打つ。だが、その舌打ちとは裏腹に爆豪のその反応に相澤の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいるほどだった。
「どうした、勝己」
「ぅ、あ……、な、んだよ、あっ、きゅうに……っ!」
「なにがだ、勝己」
「あっ、あっ、ぅあ、やだッ、それ、ぃ、やだ!」
 律動を再開させながらわざとらしく訊ねれば、ふるふると爆豪が首を振る。またしてもぐずる子どものような声で、やだやだとくり返す。相澤はさらに「なにが嫌なんだ?」と訊ねた。
「は、あっ、や……、めっ、ぅあっ!」
「だから、なにが嫌なんだ勝己」
「なまえっ、やめ……、っろ、よ!」
「なんでだ?」
「ぅ……、ぁあッ」
「おい、ほら、勝己」
「ひっ、あ……、な、んか、変なかんじ、する、ぁ、っから……、いあっ、だ!」
 だからやめろと爆豪は言う。しかし、なぜ変な感じがすると思うのかは理解していないようだ。
 ふ、と相澤は笑みを深めた。
「名前は嫌か、勝己」
「い、ぁだ!」
「なんでだ?」
「そんな、のっ、しらない!」
「けどな、俺はお前の名前を呼びたいんだ」
「だから、しらな、い……! ぁッ」
「そうか、これは困ったな勝己」
「〜〜〜〜ッ!」
 意地の悪いことをしている自覚はある。だが、下の名前で呼ぶだけできゃうきゃうと敏感に鳴いてしまう爆豪の反応に一度は諦めた欲求がむくむくと沸いてくるのを相澤は強く感じていた。
「じゃあ、こうするか。交換条件だ」
「な、に……?」
「俺の代わりにお前が呼べ」
 ふ、と息を吹き込むように赤くなった耳に囁く。
 爆豪は耳だけじゃなく、頬も目元も首筋まで真っ赤になりながら名前を呼ぶたびに身体を震わせ、きゅうきゅうと強く相澤の熱を締め付けた。
 おそらく限界が近いのだろう。爆豪の腹がひくりひくりと断続的に痙攣する。いやだいやだと言いながらも爆豪のものが萎えることはなく、震える腹を先走りが濡らしていた。
「あっ、もっ、むり、ぃ……っ! イくっ! イきた、ぃ、ッんん!」
 意地悪ばかりする相澤についに爆豪は自分で自分の熱に手を伸ばした。
 こらこら、とその手を捕まえてシーツに抑え込む。振り払おうと爆豪は暴れるが蕩けきった身体には全く力が入っておらず、抑え込むのは容易かった。
 あいざわせんせいっ、と悲鳴と嬌声が入り混じった声があがり、潤んだ目からはぽろぽろと涙がこぼれる。庇護欲を掻き立てられると同時に加虐心を煽られてしまう表情にただでさえ熱い下腹部に熱が籠った。
 正直言うと限界が近いのは相澤も一緒だった。高まりきった欲望をさっさとこいつの中に吐き出して、いっぱいにしてやりたい。植えつけてやりたい。自分という存在を。
 でもそれ以上に呼んでほしいのだ。他でもないこの子どもに。
 相澤にとって唯一の声で、唯一の名前を。
「先生じゃないだろ。俺の名前、わかるよな? 勝己」
「わ、かるッ、わかる、から、あっ!」
「なら、どうすればいいか、それもわかるだろ?」
 訊ねながら身を引き、すぐさま、ぐぷり、と奥深くに穿ち込む。
 ぅ、あ、と爆豪は喉を反らせた。相澤は激しくピストンを続けながら、ぷくりと喉仏が膨らんでいるその首に噛り付いた。なぁ、頼むから呼んでくれ。この喉を震わせて呼んでくれ。
 そうして、ついにその時は来た。

「しょ、ぅた、さ、んッ! や、ぁ、しょーたさん!」
「っ、は」
「イ、かせて……っ、はやく! んあっ、あ、しょーた、さ、んぁあっ!」
「あぁ、よくできたな勝己ッ」
 ご褒美だ。
 相澤はいままでずっとわざと避けていた“一番いいところ”を強く抉るようにして突いてやった。
 ひゅっ、と今度は声もなく爆豪の喉が鳴った。びくっ、と押さえつけた身体が大きく跳ねる。その身体をさらに押さえつけて、がつっ、と限界深くまで穿つようにして熱を叩き込む。
「ん、ぁああッ! ん、ぅ、あぁっ、んあ!! やっ、ぁ!」
 あまりの激しさにか、拒絶するように爆豪はふるふると首を振る。だが、こぼれる嬌声はどんどんと甘さを増していてあたえられる快感にすっかり溺れきっているようだった。
 嬌声の合間、はっ、はっ、と必死に呼吸を整えようとして、しかしすぐさま与えられる熱に声は止まらない。やりすぎだ。頭の中でどこか冷静な自分が言う。わかっている。自覚はある。でも、止めてやることなどできはしなかった。
 名前を呼んでもらえれば満足できるものだと思っていた。満足して心穏やかに優しく抱いてやれるとそう思っていた。けれど、現実は全然違った。まるで心穏やかになどなれるはずなどなかった。優しくできるだけの余裕などない。じりじりと胸を焼き焦がすような愛おしさにどうしようもないほど荒れて仕方がない。
「勝己……ッ」
 はッ、と相澤は荒く息を吐いた。まるで盛りのついた犬のように荒く息をくり返しながら奥を突く。この自分だけが許された深い深いところ。
「あっ、んあ! あ、っんん、ぅ、〜〜ッ、あ、あ、もっ、むり、ぃ……!」
「あぁ、わかってる」
 ちゃんとイかせてやるから安心しろ、と声には出さずに答えて、相澤はラストスパートをかけにかかった。抑えつけていた手を解放してやり、代わりに、きゅ、と引き締まった腰に手をやり引き寄せる。そのまま強く爆豪の身体を抱き寄せながら、集中的に爆豪な好きなところを責め立てる。
 じゅぶ、じゅぽ、とローションが泡立つほどに激しく音が鳴り響き、お互いの腹の間に挟まれた爆豪の性器もまたぬちゅりぬちゅりといやらしく音を立てた。
「ッあぁあ、あっ! ぁ、んっ!」
 きゅうぅ、と肉壁がさらに奥に導くようにして絡みつく。
 相澤は腹にこれでもかと力を込め、まさに最後のひと押しをくれてやる。
「かつ、きッ」
「う、あ、あっ! 〜〜ッ!!」
 声にならない悲鳴とともに爆豪の身体が強張った。びゅ、るり、と吐き出された熱い精液が二人の腹にかかり、そして相澤もまた濡れた爆豪の腹の底へと滾りきった熱を放った。最後の一滴まで余すことなく注ぎ込むように、そのままさらにゆるゆると腰を擦り付ける。
「ぁ、ぅ……、ぁ……」
「勝己……、かつき」
「ぅ……、ぁ、しょ、ぅ、ぁ……、さ、ん」
 吐き出しきってもなお消えることのない愛しさに意味もなく名前を呼べば、爆豪はかすれた声で健気に呼び返してきた。目の焦点はあっておらず意識は朦朧としている様子なのに、それでも確かに爆豪は相澤を呼んだ。
 シーツの上に力なく落ちた手がふらふらとなにかを探すように彷徨う。それを捕まえてやれば、ふにゃり、と爆豪は笑い、愛おしさは募るばかりだった。
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